統合失調症の機能解析に対する抗精神病薬の影響の評価:死後プロテオーム研究

NEUROPSYCHOPHARMACOLOGY, 47, 2033-2041, 2022 Assessing the Effects of Antipsychotic Medications on Schizophrenia Functional Analysis: A Postmortem Proteome Study. Alnafisah, R. S., Reigle, J., Eladawi, M. A., et al.

背景

統合失調症(schizophrenia:SCZ)では様々な脳部位での変化が観察されている。特に背外側前頭前野(dorsolateral prefrontal cortex:DLPFC)ではSCZに関連した形態的変化や神経伝達異常が明らかにされており,特に注目されている。これまでにSCZの死後脳DLPFCを用いた研究ではいくつかのタンパクや生物学的経路の変化が報告されている。しかし,抗精神病薬(antipsychotic drugs:APD)に曝露されていない死後脳の試料数は少なく,SCZによる変化とAPDによる変化を分離することが困難であった。

この問題を解決するためにSCZの動物モデルにAPDを投与してその影響を検討する方法が行われてきたが,動物モデル自体のSCZ再現性やAPDの作用機序自体が明確でないことが限界として挙げられる。

現在では,薬物特異的な情報が集約されたことにより,死後脳研究でより高度にAPDの影響を解析することができるようになった。具体的には,薬物関連の特徴を紐付けたComparative Toxicogenomics Database(CTD)と,実験的に得られた薬物特異的特徴を紐付けたConnectivity Map(cmap)がある。本研究では,これらの情報と液体クロマトグラフィー質量分析(liquid chromatography–mass spectrometry:LCMS)を使用したプロテオミクスデータを系統的に統合し,死後DLPFCにおけるAPDとSCZの病態生理に起因する変化を検討した。

方法

メリーランドとアラバマの脳バンクからSCZと非精神病対照の死後DLPFCを入手した。本研究では二つのコホートを使用し,質量分析コホートにはSCZ群10名と非精神病対照群10名,配座解析コホートにはSCZ群23名と非精神病対照群23名が含まれた。

結果

本研究では遺伝子オントロジー,細胞型,細胞内シナプスに注目した機能解析によってプロテオームを解析した。In silicoによる検証では,SCZで変化したプロテオームは,DLPFCとその他の脳領域に関するこれまでの研究において一定していることが明らかになった。生物学的経路においては,SCZは恒常性,シグナル伝達,細胞骨格,樹状突起の変化に,APDはシナプスシグナル伝達,神経伝達物質調節,免疫系の変化に影響を及ぼした。細胞型に関しては,SCZとAPDのプロテオームは,ドパミン分泌を制御する二つの異なる線条体投射型第5層錐体神経に関連していた。細胞内シナプスに関しては,シナプス前及びシナプス後の代償性の相反する変化が観察された。薬物標的レベルでは,ドパミン作動性がSCZでアップレギュレートしたプロテオームに影響を与え,非ドパミン作動性及び多様な非神経調節機能がSCZでダウンレギュレートしたプロテオームに影響を与えていた。

考察

本研究では,SCZによる変化の多くがAPDからも影響を受けていることが明らかになったが,二つの方法でそれぞれの影響の分離を試みた。まず,SCZの影響を受けたプロテオームとAPDの影響を受けたプロテオームの経路を比較した結果,恒常性,シグナル伝達,細胞骨格,樹状突起に関連する過程は,APDによって補正されないことを明らかにした。また,作用機序がわかっている薬剤の特徴から,薬剤の交絡効果にもかかわらず,SCZの病態生理に関与する潜在的なメカニズムが明らかになった。本研究の結果は過去の報告と一貫しており再現性が強調される一方,過去の研究ではAPDが影響しているため,これまでの知見に基づくSCZの病態生理の仮説には疑問が残る。

259号(No.1)2023年4月4日公開

(岩田 祐輔)

このウィンドウを閉じる際には、ブラウザの「閉じる」ボタンを押してください。