治療抵抗性の大うつ病エピソードに対するpsilocybinの単回投与

N ENGL J MED, 387, 1637-1648, 2022 Single-Dose Psilocybin for a Treatment-Resistant Episode of Major Depression. Goodwin, G. M., Aaronson, S. T., Alvarez, O., et al.

背景

治療抵抗性うつ病患者は,治療反応性うつ病患者に比べて,疾患の重症度が高く,罹病期間が長く,障害や身体疾患が重く,入院率,自殺のリスク,経済的コストが高いと言われている。うつ病を対象とした予備研究においてpsilocybin*が抑うつ症状を改善したことから,治療抵抗性うつ病に対するpsilocybin治療の可能性が示唆されている。本試験では,治療抵抗性の大うつ病エピソードを有する患者において,心理的サポートを行うと共に,独自に合成したpsilocybin製剤を投与し,許容できる有効量を特定し,安全性を評価することを目的とした。

方法

本研究は第Ⅱ相二重盲検試験であり,治療抵抗性うつ病の成人を対象として,心理的サポートを行うと共に,psilocybinの独自の合成製剤を25mg,10mg,または1mg(プラセボ)の用量で単回投与する群に無作為に割り付けた。

主要評価項目は,モンゴメリ・アスベルグうつ病評価尺度(Montgomery-Åsberg Depression Rating Scale:MADRS)の総点の基準時点から3週間目までの変化とした。副次的評価項目は,3週目の反応(MADRS総点が基準時点から50%以上減少),3週目の寛解(MADRS総点≦10),12週目の反応持続(3週目とその後の全ての診察で反応基準を満たす)であった。

結果

428名の参加者から選別された233名が登録された。25mg群に79名,10mg群に75名,1mg群に79名が割り付けられた。基準時点の参加者の人口統計学的及び臨床的特徴は,3群間で同等であった。基準時点のMADRS総点の平均は,25mg群31.9点,10mg群33.0点,1mg群32.7点であった。

基準時点から3週目までのMADRS総点の最小二乗平均の変化量は,25mg群-12.0,10mg群-7.9,1mg群-5.4であった。25mg群と1mg群の最小二乗平均の変化量の差は-6.6[95%信頼区間(Cl):-10.2--2.9,p<0.001],10mg群と1mg群の差は-2.5(95%Cl:-6.2-1.2,p=0.18)であった。25mg群は1mg群と比べて,3週目の反応率と寛解率は高かった[反応率のオッズ比(OR)=2.9,95%CI:1.2-6.6;寛解率のOR=4.8,95%CI:1.8-12.8]が,12週目の反応持続率において有意差は見られなかった(OR=2.2,95%CI:0.9-5.4)。

有害事象は233名中179名(77%)に発現し,頭痛,吐き気,めまいが含まれた。投与2日目から3週目までに,25mg群では9%,10mg群では7%,1mg群では1%に重篤な有害事象が報告された。希死念慮や自殺行動,自傷行為は全ての投与群で発生した。

結論

治療抵抗性うつ病患者を対象に,心理的サポートを行うと共にpsilocybinを単回投与した第Ⅱ相試験において,25mg群では1mg群と比較して3週後のMADRS総点が有意に低下したが,有害事象を伴うものであった。10mg群では1mg群と比較して3週後のMADRS総点において有意差が認められなかった。治療抵抗性うつ病に対するpsilocybinの有効性と安全性を明らかにするためには,既存の治療法との比較も含めたより大規模で長期間の試験が必要である。

*日本国内では未発売

259号(No.1)2023年4月4日公開

(米澤 賢吾)

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