高齢者うつ病における精神病症状の有無と,うつ病エピソード期間と電気痙攣療法による寛解率との関係

J CLIN PSYCHIATRY, 83, 21M14287, 2022 Remission Rates Following Electroconvulsive Therapy and Relation to Index Episode Duration in Patients With Psychotic Versus Nonpsychotic Late-Life Depression. Wagenmakers, M. J., Oudega, M. L., Bouckaert, F., et al.

目的

電気痙攣療法(ECT)は安全かつ有効な治療法であり,特に精神病性の高齢者うつ病(LLD)において有効である。しかし,精神病性LLD患者が高いECT効果を示すのは,病気の重症度と生命を脅かす症状のために,うつ病エピソードの罹病期間(指標期間)が短くても早めにECTに紹介されることによるものなのか,それとも臨床的な違いによるものなのかは明らかではない。本研究の第一の目的は,精神病性LLD患者と非精神病性LLD患者のECT寛解率の違いを調査することである。第二の目的は,精神病症状の有無とECT寛解の関連が,指標期間で説明できるかどうかを検証することである。

方法

ValeriusコホートとMood Disorders Treated with Electroconvulsive Therapy(MODECT)コホートから,ECT治療を受けたLLD患者186名を抽出し対象とした。早期発症うつ病の定義は,カットオフ年齢である55歳以前に最初のうつ病エピソードがあることとした。重症度の評価にはモンゴメリ・アスベルグうつ病評価尺度(Montgomery-Åsberg Depression Rating Scale:MADRS)を用い,MADRS評点が2回連続で10未満となった場合を寛解と定義した。うつ病の診断は,DSM-Ⅳ(Valeriusコホート)及びDSM-Ⅳ-TR(MODECTコホート)の基準に基づいて行われた。

ECTは,Valeriusコホートでは年齢別投与プロトコルを使用し,MODECTコホートでは右片側電極設置(RUL)の場合は最初の発作閾値(ST)の6倍,両側ECTの場合はSTの1.5倍で刺激量を設定した。全ての患者に対して短時間パルスECT(0.5~1.0ms)で治療が行われた。両コホートとも,寛解まで,または片側6回以上,両側6回以上のECTセッションを行った後,最後の2週間のECTで臨床状態に更なる改善が見られなくなるまで治療を行った。

精神病症状,指標期間,寛解の関連を評価するためにステップワイズ・ロジスティック回帰モデルを構築した。

結果

非精神病性LLDと比較すると,精神病性LLDの患者は年齢が高く,発症年齢が遅く,指標期間が短く,更にECT前の認知機能低下がより重度であった[ミニメンタルステイト検査(MMSE)の平均(標準偏差:SD)は,精神病性LLDで23.5(5.6),非精神病性LLDで25.9(3.7)]。しかし,ECT前の認知機能を除いて,これらの差はいずれも統計学的に有意でなかった。ECT後は,両群とも認知機能が改善し[MMSEの平均(SD)は,精神病性LLDで25.8(4.3),非精神病性LLDで26.5(3.9)],統計学的な群間差は見られなくなった。

ECTによる寛解率については,精神病性LLD患者(68.9%)は,非精神病性LLD患者(51.0%)と比較して寛解率が有意に高かった[オッズ比(OR)=2.01,95%信頼区間(CI):1.1-4.23,Wald χ2=4.71,p=0.03]。年齢,性別,基準時点のうつ病の重症度について追加補正を行ったところ,精神病症状はECTによる寛解と有意に関連し(OR=2.10,95%CI:1.07-4.10,Wald χ2=4.70,p=0.03),指標期間とECTによる寛解には有意な関連は認められなかった(OR=0.97,95%CI:0.93-1.00,Wald χ2=2.98,p=0.09)。

結論

ECTで治療された精神病性LLD患者は,非精神病性LLD患者と比較して高い寛解率を示した。精神病性LLD患者の高い寛解率は,指標期間の短さとは関連しなかった。 

今後,精神病性うつ病と非精神病性うつ病の神経生物学的な違いに焦点を当てた研究が行われれば,この亜型のうつ病になぜECTが著効するかが明らかになるかもしれない。 

259号(No.1)2023年4月4日公開

(内沼 虹衣菜)

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