うつ病患者の安静時ネットワークにおける機能的結合の変化:安静時機能的結合性研究

J PSYCHIATR RES, 155, 33-41, 2022 Altered Functional Connectivity in Common Resting-State Networks in Patients With Major Depressive Disorder: A Resting-State Functional Connectivity Study. Krug, S., Müller, T., Kayali, Ö., et al.

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背景

うつ病は,世界中で約3億2,200万人が罹患している,社会的影響の大きい精神障害である。しかし,うつ病の神経学的基盤については,多くの研究が行われているにもかかわらず,十分に明らかになっていない。抑うつ気分や快楽消失(アンヘドニア)などのうつ病の中核症状には,主に感情調節と認知制御を支える側頭及び内側大脳の機能的結合性(FC)の異常が関与していることが知られている。他にうつ病の信頼できる生物学的マーカーがない中,これらのネットワーク及びこれらと他の障害領域とのネットワークとの相互作用が,うつ病の神経学的基盤として提唱されている。言い換えると,うつ病はFCの変化を伴うネットワークベースの障害として理解されている。

多くの研究では,安静時の機能的核磁気共鳴画像(fMRI)を用いて,大規模な脳内ネットワークの特定領域の異常な相互作用を非侵襲的に評価している。うつ病患者では,default mode network(DMN),salience network(SN),executive control network(EXE),cortico-limbic network(LIM)において,最も顕著に結合性の変化が報告されている。DMNは内的指向性及び自己言及性のプロセスの基盤と考えられている。SNは辺縁系感情処理と感情制御に重要な役割を果たすと推定される。そのためSNは急性ストレス時を含め,顕著な刺激発生時に活性化される。EXEは,作動記憶,意思決定,注意回路などの認知処理の側面に関与しており,内的または外的刺激に対する注意の調節など,注意と作動記憶のタスクのトップダウン調節に関与していると考えられている。

しかし,うつ病におけるFCに関する研究の結果は一貫していない。その主な理由として,サンプルの異質性が高かったことが考えられる。

本研究では,これらの問題点を克服するため,大規模で特に慎重にスクリーニングされ診断された被験者において,うつ病群と健常群でのDMN,EXE,SN,LIMにおけるFCの違いについて検討を行った。

方法

51名の健康な被験者と55名のうつ病患者が組み入れられた。全てのうつ病の診断は,DSM-IVの構造化臨床面接によって確認した。そして,全ての被験者を対象に,基礎情報の取得及びMRIの撮像を行った。MRI解析におけるシードとしては上述のDMN,EXE,SN,LIMを選択した。

結果

参加した106名の被験者において,2群間で年齢及び性別に差は認められなかった。

MRI解析では,うつ病患者において,上述の四つのネットワークのうち三つ,具体的にはLIM,SN,EXEで,健常対照者と比較して結合性の異常が認められた。うつ病患者では,健常対照者と比較して,左海馬と左前帯状皮質(ACC)間(t(104)=4.54,p<0.001),及び右海馬と左ACC間(t(104)=4.86,p<0.001)の結合性が増加していた(図1)。また,左島と右ACCの間(t(104)=4.15,p=0.001),右島と左ACCの間(t(104)=4.03,p=0.006)においても,うつ病患者では健常対照者と比較して結合性が低下していることが示された(図2)。更に,うつ病患者では,左下頭頂回と左上前頭回の間の結合が,健常対照者と比べて低下していることが示された(t(104)=5.34,p<0.001)。

考察

本研究では,うつ病の病態生理学的神経メカニズムを調べるために,うつ病患者と健常者の安静時の脳内ネットワークのFCの比較検討を行った。うつ病患者では健常者と比較して,LIM,SN,EXEにおいて結合性の変化があることが明らかとなった。一方でDMNには,うつ病と健常者の間で安静時FCの変化は見られなかった。特に,うつ病患者は海馬とACCとの間に高い結合性を示した。 

図1. 海馬と前帯状皮質(ACC)間の安静時機能的結合性(rsFC)の変化
図2. 島と前帯状皮質(ACC)間の安静時機能的結合性(rsFC)の変化

259号(No.1)2023年4月4日公開

(和田 真孝)

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