パーキンソン病患者におけるうつ病性障害の罹患率と関連因子

J NERV MENT DIS, 210, 777-783, 2022 Morbidity and Associated Factors of Depressive Disorder in Patients With Parkinson's Disease. Lee, Y., Chiou, Y.-J., Chang, Y.-Y., et al.

背景と目的

パーキンソン病(PD)は,進行性の神経変性疾患であり,うつ病と併存することが多い。うつ病は非運動症状の中で最もPD患者を衰弱させ,生活の質(QOL)やひいては死亡率にも影響を与える。PD患者におけるうつ病の有病率については報告によって2.7~90%とバラつきが大きい。一般的には臨床的に有意なうつ病はPD患者の40~50%で起こると考えられている。

自記式尺度を用いた検査ではうつ病を過大評価することがあり,PD患者のうつ病性障害の正確な罹患率を調べる疫学研究では構造化面接を用いることが望ましいが,PD患者においてうつ病の関連因子を検討した報告は少ない。本横断研究の目的は,PDにおけるうつ病の罹患率と関連因子を評価することである。

方法

合計181名のPD患者が登録され,統一パーキンソン病評価尺度(Unified Parkinson's Disease Rating Scale:UPDRS)をはじめとして,様々な症状評価を行い,精神症状については精神疾患簡易構造化面接法(Mini-International Neuropsychiatric Interview)を用いて評価した。不眠症やレム睡眠行動障害を含む睡眠障害はDSM-5に基づいて診断した。

結果

登録患者のうち51%が少なくとも一つの精神科診断を受けていた。最も多く見られた精神疾患は,うつ病性障害(27.6%)で,次いでレム睡眠行動障害(9.9%),不眠症(8.8%),適応障害(2.8%)であった。うつ病性障害において最も多かったのは特定不能のうつ病性障害(13.8%)で,次いで大うつ病性障害(11.6%),気分変調症(2.2%)であった。

うつ病を合併していないPD患者に比して,合併しているPD患者においては無職が多く(p<0.05),催眠薬の使用歴があり(p<0.05),より希望を持っておらず(p<0.001),疲労感が強く(p<0.001),レジリエンスが低く(p<0.001),神経症傾向が強く(p<0.001),日常生活活動能力が低く(p<0.05),UPDRS得点が高く(p<0.05),不安と抑うつ症状が強かった(p<0.001)。

PD患者のうつ病性障害について上記の基準時点における有意な因子をロジスティック回帰のステップワイズフォワードモデルを用いて分析したところ,不安の重症度[オッズ比(OR):1.35,95%信頼区間(CI):1.18-1.55,p<0.001),自殺リスクの重症度(OR:1.12,95%CI:1.02-1.23,p<0.05),抗不安薬/催眠薬の使用(OR:2.79,95%CI:1.23-6.31,p<0.05)の三つが有意な関連因子であった。

構造方程式モデリングを用いると,不安の重症度(β=0.38,p<0.001),自殺リスク(β=0.19,p<0.01),抗不安薬/催眠薬の使用(β=0.15,p<0.05)がPD患者のうつ病性障害と有意に関連しており,更に不安の重症度(β=0.44,p<0.001)は,PD患者における自殺リスクと有意に関連していた。

考察

これまでのメタ解析では,うつ病患者はその後のPD診断のリスクが高いことが示されている。PDは進行性疾患であるため,運動症状と非運動症状の両方が時間の経過と共に増加する。うつ病はPDの非運動症状の一部であることから,運動症状の前に現れる可能性がある。また,うつ病はPDの診断に伴う二次的な反応として,またはPDの悪化が原因で発症することもある。今回の横断的研究では,調査時点の抑うつ状態のみを調査しており,うつ病とPDの運動症状の発症との時間的な関係は明らかにされていない。PDに関する原発性うつ病や続発性うつ病を明らかにするためには今後前方視的研究が必要である。

不安の重症度,自殺リスク,抗不安薬/催眠薬の使用は,PD患者のうつ病性障害と関連する因子であった。本研究でうつ病性障害との間に最も強い関連が見られたのは抗不安薬/催眠薬の使用であった。これまでの研究においても不眠はPD患者におけるうつ病発症のリスクと関連すると報告されており,抗不安薬/催眠薬を習慣的に使用しているPD患者はよりうつ病を発症しやすいと考えられる。不安については二番目に強い関連が見られたが,これまでの研究で不安はPD患者のうつ病発症のリスクの一つであると報告されている。また,全国コホートを用いた研究では,PD患者は独立して自殺リスク上昇と関連していることが報告されており,うつ病を含む精神障害は,自殺の危険因子の一つであることが明らかになっている。しかし,PD患者におけるうつ病の関連因子としての自殺リスクに関する研究はまだ不足しており,今後更なる先進的な研究が必要である。

構造方程式モデリングの結果,不安の重症度は自殺リスクと有意に関連していた。このことからPD患者の自殺を防ぐためには不安症状に注意を払うことが重要であると考えられる。

結論

PD患者ではうつ病性障害,次いでレム睡眠行動障害が多く併存する。抗不安薬/催眠薬の使用,不安の重症度,自殺リスクの重症度がPD患者のうつ病性障害と有意に関連する。そして不安症状は自殺リスクと関連する。

筆者らは,PD患者のうつ病を早期に発見するためには,標準化された構造化面接を使用することを提案する。また,不安症状,抗不安薬/催眠薬の使用,うつ病,自殺のリスクは相互に関連しており,PD患者において留意すべきである。

259号(No.1)2023年4月4日公開

(三村 悠)

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