内分泌代謝障害とうつ病の併発に対する遺伝・環境要因の関与:スウェーデンの全国規模の兄弟姉妹研究

AM J PSYCHIATRY, 179, 824-832, 2022 Genetic and Environmental Contribution to the Co-Occurrence of Endocrine-Metabolic Disorders and Depression: A Nationwide Swedish Study of Siblings. Leone, M., Kuja-Halkola, R., Leval, A., et al.

目的

うつ病と内分泌代謝疾患は併発することが多く,様々な要因がこの併発に関連していること,そして,共通する遺伝要因の影響も示唆されている。うつ病と内分泌代謝疾患の併発に対する治療戦略を検討するためには,これらに共通する要因の更なる解明が必要である。本研究では,うつ病と内分泌代謝障害の家族集積性を調べ,その併存に対する遺伝要因と環境要因の寄与を推定した。

方法

スウェーデンの全国疾患登録システムを用いた観察コホート研究を行った。このコホートデータは,1973~1996年の間にスウェーデンで生まれた約220万人を対象とし,2013年まで追跡調査したものであった。参加者は実の両親と紐付けされており,両親を同じくする兄弟姉妹,異父兄弟姉妹,異母兄弟姉妹を特定することが可能であった。

調査期間中のうつ病と内分泌代謝障害の診断を調べた。前者は,観察期間中にうつ病の診断を受けた者とした。後者は更に,自己免疫障害(自己免疫性甲状腺機能低下症,バセドウ病,1型糖尿病)と非自己免疫障害(2型糖尿病,肥満,多嚢胞性卵巣症候群)に分類した。

統計解析として,内分泌代謝障害とうつ病の関連を,同一人物内及び兄弟姉妹間で推定するために,ロジスティック回帰及びCox回帰を用いた。全コホートにおいて内分泌代謝障害がある者とない者でうつ病のリスクを比較した。次に,これらの障害の家族集積パターンを評価し,両親を同じくする兄弟姉妹,異父兄弟姉妹,異母兄弟姉妹を別々に解析した。そして,遺伝要因と環境要因の相対的寄与度を調べるために,定量的遺伝解析を行った。

結果

合計2,263,311名(女性48.8%)を中央値27年にわたって追跡調査した。観察期間中のうつ病の有病率は5.2%(118,051名,女性63.0%)であり,出生年が進んでも概ね一定であった。

一般人口と比べて,内分泌代謝障害を有する者はうつ病のリスクが有意に高かった[自己免疫疾患への曝露では,オッズ比(OR):2.05,95%信頼区間(CI):1.99-2.12;非自己免疫疾患への曝露では,OR:2.33,95%CI:2.28-2.39)]。疾患別に見ると,ORはバセドウ病の1.43(95%CI:1.30-1.57)から2型糖尿病の3.48(95%CI:3.25-3.72)までの範囲に及んでいた。うつ病と2型糖尿病,肥満,自己免疫性甲状腺機能低下症,多嚢胞性卵巣症候群との関連は,異父兄弟と比較して,両親を同じくする兄弟姉妹の方が強く,それぞれの疾患に対する遺伝要因の影響を示唆するものであった。一方,1型糖尿病を有する,両親を同じくする兄弟姉妹,異父兄弟姉妹,異母兄弟姉妹では,うつ病リスクに差がなく,1型糖尿病とうつ病との関連には固有の環境要因がある可能性が示唆された。また,異母兄弟姉妹と異父兄弟姉妹の間で観察されたORの大きさは全体的に同等であり,これらの関連を説明する共通の環境要因の影響は小さいことが示唆された。

定量的遺伝解析結果では,内分泌代謝障害のある者とない者において観察されたうつ病のORのパターンと一致して,うつ病と2型糖尿病(OR:0.22,95%CI:0.20-0.23),肥満(OR:0.19,95%CI:0.18-0.20),自己免疫性甲状腺機能低下症(OR:0.17,95%CI:0.16-0.18)との間に強い表現型相関が認められ,これらの関連は遺伝要因でそれぞれ74%,56%,34%,固有の環境要因でそれぞれ33%,32%,53%が説明された。一方,うつ病と1型糖尿病の相関には遺伝要因はほとんど関与していないことが示唆され,非共有の環境因子で表現型相関の84%が説明された(OR:0.11,95%CI:0.10-0.13)。

結論

本結果は,内分泌代謝障害とうつ病の併発の背景にある生物学的機序や修正可能な危険因子の特徴の解明や標的化を目的とした今後の研究において,有用な基盤となるものである。

259号(No.1)2023年4月4日公開

(吉田 和生)

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