母親の産後うつ病の危険因子としての精神障害の家族歴:系統的レビューとメタ解析

JAMA PSYCHIATRY, 79, 1004-1013, 2022 Family History of Psychiatric Disorders as a Risk Factor for Maternal Postpartum Depression: A Systematic Review and Meta-Analysis. Zacher Kjeldsen, M.-M., Bricca, A., Liu, X., et al.

背景と目的

新たに母親になった女性の約10~15%が産後うつ病(postpartum depression:PPD)を経験するため,リスクの高い女性を早期に特定することは重要である。精神障害の家族歴は,系統的レビューではPDDの危険因子に含まれないことがあるが,家族観察研究においてはPPDの家族性が確認されており,一貫した所見が得られていない。

本系統的レビューとメタ解析では,精神障害の家族歴と産後0~12ヶ月に発症したPPDとの関連に関する現在の知見を総括することを主要な目的とした。

方法

産後12ヶ月以内のPPDの危険因子として精神障害の家族歴を調査したコホート研究及び症例対照研究を対象とした。2021年9月12日にPubMed,Embase,PsycINFOで言語や出版年の制限なしに検索を行い,2022年3月31日に検索を更新し,レビューの最終確認を行った。

Newcastle-Ottawa scaleを用いて,バイアスリスクを評価した。

メタ解析は,Stata version 17.0(StataCorp)を使用して,サンプルとPPD定義の予想される異質性を考慮した制限付き最尤法ランダム効果モデルを用いて実施した。研究間の統計学的異質性はQ検定で推定し,I2を示した。出版バイアスは,ファネルプロットとPeters検定によって評価した。

GRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development, and Evaluation)を用いて,結果の確実性を評価した。

結果

まず4,239報の論文が抽出され,スクリーニング,引用文献検索,データベース検索の更新,著者への連絡などを経て最終的に26報の論文を対象とした。24件のコホート研究と2件の症例対照研究の産後女性100,877名が対象となった。精神障害の家族歴は主に自己報告式の質問票を用いて評価され(23報),PPDは検証済みの方法(13報),臨床面接(12報),全国規模の登録(1報)を用いて評価されていた。

精神障害の家族歴があるとPPDのオッズが上昇し[オッズ比=2.08,95%信頼区間(CI):1.67-2.59,I2=57.14%],一般人口におけるPPD有病率を15%とすると,相対リスク1.79(95%CI:1.52-2.09)に相当した。

考察

精神障害の家族歴は,ほとんどの研究(23報)で自己報告によって評価されており,通常の周産期医療において高リスクの女性を特定するには精神障害の家族歴に関する単一の自己報告式の質問を使用することが有益である可能性を示している。更に,個人の精神科既往歴も強力なPPD危険因子であることから,臨床現場では,個人及び家族の精神障害の既往歴というたった二つの自己報告式の質問を用いるだけで,迅速かつ低コストでPPDリスクを評価できる可能性が示唆される。

結論

なんらかの精神障害の家族歴を持つ母親は,持たない母親と比較して,PPD発症リスクがほぼ2倍であることが明らかにされた。精神障害の家族歴に関する情報は,簡単な自己報告式の質問を通じて容易に確認することができ,早期に確認することにより,効果的なPPDの予防と介入が可能になる。

259号(No.1)2023年4月4日公開

(野村 信行)

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