産後うつ病の家族性リスク

ACTA PSYCHIATR SCAND, 146, 340-349, 2022 Familial Risk of Postpartum Depression. Rasmussen, M.-L. H., Poulsen, G. J., Wohlfahrt, J., et al.

はじめに

産後うつ病は出産した女性の5~15%に出現する。精神疾患の多くに家族集積性が認められるが,産後うつ病の家族集積性については十分に調査されていない。先行研究の結果によると,産後うつ病の患者のうち精神科既往歴のない女性の占める割合は比較的高い。また,家族の精神疾患と産後精神障害のリスクとの間に,本人の精神科既往歴とは独立した遺伝的関連があることが示唆される。

本研究の目的は,全国規模のコホートにおいて,精神科既往歴のない女性の産後うつ病の家族集積性を調査することである。

方法

デンマーク市民登録制度(Civil Registration System:CRS)に基づき,1996年1月1日~2017年12月7日の全ての出産例(死産とデンマーク以外で出生した女性の出産を除く)から成るコホートを構築した。産後うつ病エピソードの既往歴,または出産前に精神科既往歴を有する女性を除外した。出産した女性(発端女性)の血縁のある女性親族として,発端女性の母親及び姉妹(第一度親族),祖母・おば・姪(第二度親族),従姉妹(第三度親族)と,発端女性の血縁のない女性親族として,①発端女性の配偶者(発端配偶者)の祖母・母親・姉妹・おば・従姉妹,②発端女性の兄弟の配偶者,③発端配偶者の兄弟の配偶者と,発端配偶者のおじの配偶者をコホートに組み入れた。基準を満たした出産848,544例を対象とし,出産後6ヶ月間の追跡を行った。

産後うつ病のエピソードの定義は,産後6ヶ月以内に抗うつ薬を使用するかうつ病のために医療機関を受診することとした。精神科既往歴の定義は,出産前に抗精神病薬または精神刺激薬を処方されていたこととした。

2項対数線形回帰分析を行い,産後うつ病の既往歴を有する親族の有無別に,発端女性における産後うつ病のリスクを評価した。

結果

848,544例の出産に関し,発端女性の親族のうち産後うつ病の既往歴を有する者は,血縁のある女性親族(女性血縁親族)では2,888名(0.4%),血縁のない女性親族(女性義理親族)では8,087名(1.0%)であった。

産後うつ病の既往のある女性血縁親族がいると,産後うつ病エピソードのリスクが高くなった[相対リスク(RR)=1.64,95%信頼区間(CI):1.16-2.34]。特に,第一度親族の女性(母または姉妹)に産後うつ病の既往がある場合は,第一度親族の女性に既往がない場合に比較し,発端女性の産後うつ病のリスクは2.5倍(RR=2.65,95%CI:1.79-3.91)であった。一方,第二または第三度親族の女性に産後うつ病の既往がある場合は,発端女性の産後うつ病のリスクは高くなかった(RR=0.58,95%CI:0.26-1.28)。また,血縁関係のない女性親族に産後うつ病の既往があることと,発端女性の産後うつ病のリスク上昇とは相関がなかった(RR=1.09,95%CI:0.83-1.44)。

更に解析を行ったところ,発端女性と血縁のある女性親族における精神科既往歴も,関連に対して著しい影響はなかった。

考察と結論

本研究の限界として,抗うつ薬の使用または医療機関の受診をした出産女性のみを産後うつ病として抽出したため重症例のみが組み入れられているかもしれないこと,精神科既往歴のない女性のみを組み入れたため,精神科既往歴のある女性に関しては今回の結果から推定することはできないことが挙げられる。

本研究より,精神科既往歴のない女性では産後うつ病に家族集積性が認められることが示された。ただし,この結果は産後うつ病の原因として,遺伝形質が際立っていることを支持するものではない。家族集積性の機序としては,親密な関係において共有された環境や,健康希求行動が考えられる。

259号(No.1)2023年4月4日公開

(久江 洋企)

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