双極抑うつの臨床経過:メランコリー型と非メランコリー型

J NERV MENT DIS, 210, 862-868, 2022 Clinical Course in Patients With Melancholic and Nonmelancholic Bipolar Depression. Martino, D. J., Valerio, M. P., Lomastro, J., et al.

背景

DSMで操作的に定義されたうつ病(MDD)には,病態生理学的にも治療論からも,不均質なものが含まれることが種々の研究で示されてきた。一方で,双極性障害(BD)における大うつ病エピソードの定義は,MDDのそれと共通しているにもかかわらず,このような批判的検証はBDについてはなされていない。双極抑うつは20世紀の間,メランコリー型(内因性もしくは精神病性に相当)であり,再発するものと概念化されてきた。クレペリンが再発性のメランコリーを,躁状態の有無にかかわらず躁うつ病に組み入れたことはDSM-Ⅰにも受け継がれた。レオンハルトらにより,躁うつの患者と単極性抑うつ精神病を再発する患者の比較がもたらされ,DSM-Ⅲから現在に至るまで,双極抑うつは,躁状態の既往がある患者における抑うつ(メランコリー型/精神病性か否かにかかわらず)全てを指すようになった。

種々の抑うつ体験を単一の定義に組み入れることで,BDについての理解を誤らせる可能性が高まった。ロビンスやグーズが示唆したように,双極抑うつの亜型(メランコリー,非定型,精神病性,等)によって経過や治療反応性等が異なるのか否かが比較できることが有益であると考えられ,本研究においては,4年以上にわたって,メランコリー型抑うつと非メランコリー型抑うつの長期的な臨床経過を比較することを目的とした。

方法

INCyT-Favaloro大学の気分障害プログラムに組み入れられた患者の中から,18~65歳で,DSM構造化面接(Structured Clinical Interview for DSM:SCID)を用いてBDのⅠ型もしくはⅡ型と診断され,基準時点(追跡開始時点)と研究組み入れ時点(追跡終了時点)の両時点において8週以上の寛解期[ハミルトンうつ病評価尺度8点以下かつヤング躁病評価尺度(Young Mania Rating Scale)6点以下]にあり,48ヶ月以上継続して参加した77名が選択された。物質使用障害や精神遅滞,甲状腺機能低下などの既往がある者は除外した。シドニーメランコリープロトタイプ指標(Sydney Melancholia Prototype Index)によってメランコリー型か否かの2群を区別した。

臨床経過の中で,①不調であった期間(毎回の診察時点に記載された),②気分の不安定性(気分が変化した回数から計算した),③抑うつエピソードの平均期間,④抑うつエピソードの平均重症度,⑤気分エピソードの濃厚さ(年間躁/抑うつエピソード回数から計算した),⑥抑うつ再発までの時間,の6指標を解析した。各種薬物療法の内容についての情報も収集した。

結果

メランコリー型は48.10%,非メランコリー型は51.90%であった。主要な向精神薬の使用状況に有意な差はなかった。平均追跡期間は69.05ヶ月であり,抑うつエピソードは平均2.42回,軽躁/躁病エピソードは平均1.29回であった。平均77.18%の期間は寛解期であった一方,抑うつ症状を平均17.04%の期間,軽躁/躁症状を平均5.92%の期間,それぞれ呈していた。気分変動の回数は平均3.05回,再発が認められた参加者は58.4%であった。

メランコリー型の方が非メランコリー型よりも,再発までの期間(17.04 vs 5.94ヶ月,p<0.001),寛解までの平均期間(4.60 vs 2.15ヶ月,p=0.011)とも,有意に長かった。

結論

本研究により,双極抑うつはメランコリー型か否かで異なる臨床経過をたどることが示された。現代の双極抑うつ概念は不均質さを孕むものであり,より経験に裏打ちされた定義に到達するための更なる臨床研究が望まれる。

259号(No.1)2023年4月4日公開

(滝上 紘之)

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