スウェーデンにおける妊娠中の母体感染と子の自閉症及び知的障害のリスクとの関係:陰性対照及び同胞比較コホート研究

LANCET PSYCHIATRY, 9, 782-791, 2022 Maternal Infection During Pregnancy and Likelihood of Autism and Intellectual Disability in Children in Sweden: A Negative Control and Sibling Comparison Cohort Study. Brynge, M., Sjöqvist, H., Gardner, R. M., et al.

背景

妊娠中の母体の尿路感染症は,子の軽度~中等度の知的障害のリスクを36%上昇させるという報告がある。自閉症に関してはより多くの研究が報告されており,36報の研究に基づくメタ解析からは,妊娠中の母体感染か発熱が子の自閉症のリスクを32%上昇させることが明らかになっている。しかし,自閉症や知的障害自体が先天的な免疫系に関わる遺伝子多様体と関連していることも明らかになっている。従って,本研究では,交絡因子(自閉症や知的障害と重大な感染症の間の共通の遺伝子による影響など)も考慮した上で,妊娠中の母体感染と子どもの自閉症及び知的障害の関係を調べた。

方法

登録データによるコホート研究を用い,スウェーデンのストックホルム県内在住で,1987~2010年に生まれた子どもを対象とした。除外した例は,スウェーデンで出生していない例,Medical Birth Registerに登録されていない出生,養子,生物学上の母親ないしは父親が不明な例,知的障害または自閉症と関連する染色体異常ないしはアミノ酸代謝障害例(研究結果が子どもの状態に影響したため)とした。交絡因子を考慮して,陰性対照として妊娠前の1年間に感染症を罹患した母体から生まれた子の群を用いた。更に,同胞比較では,同胞のいない子どもを除外して,自閉症ないしは知的障害を持たない同胞をコホートに組み入れて比較を行った。

ICD-8,ICD-9,ICD-10コードの定義により感染症と診断された全ての入院及び外来例を,National Patient Register及びMedical Birth Registerを用いて同定した。

主要評価項目は2016年12月31日時点での自閉症ないしは知的障害の診断とした。

統計手法としてはCox回帰分析の生存分析を用い,頑健サンドイッチ推定法を用いて標準誤差を求めた。

結果

647,947名の子どもが同定され,97,980名を除外し,549,967名を対象とした。測定の打ち切り時の平均年齢は13.5歳(標準偏差5.0歳),25.9%がスウェーデンで生まれていない母親の子どもであった。妊娠中に母体が感染に曝された子どもの3.3%が自閉症,1.3%が知的障害と診断され,一方で母体が感染に曝されていなかった場合は2.5%の子どもが自閉症,1.0%の子どもが知的障害と診断された。

妊娠中の母体感染は自閉症[ハザード比(HR)=1.16,95%信頼区間(CI):1.09-1.23]及び知的障害(HR=1.37,95%CI:1.23-1.51)の両者の疾患に関連していた。

陰性対照を用いた解析では,妊娠前の1年間における母体感染は自閉症(HR=1.25,95%CI:1.14-1.36)と関連していたが,知的障害(HR=1.09,95%CI:0.94-1.27)とは関連していなかった。知的障害を伴わない自閉症(HR=1.30,95%CI:1.19-1.43)に限定しても同様の関連が認められたが,知的障害を伴う自閉症(HR=1.01,95%CI:0.81-1.27)及び自閉症を伴わない知的障害(HR=1.13,95%CI:0.92-1.39)では関連が認められなかった。

一方の同胞比較では,394,093名 が組み入れられ,全コホートでの解析と比較して,妊娠中の母体感染の影響は自閉症(HR=0.94,95%CI:0.82-1.08)で減衰したが,知的障害(HR=1.15,95%CI:0.95-1.40)では同様のレベルまでは減衰しなかった。

全コホートにおいて,感染タイプまたは妊娠中の感染症を発症した時期という観点で感度分析を行っても一次解析との間に差は認められず、また全コホートおよび同胞比較において,入院治療に限定しても差は認められなかった。

考察

妊娠前の1年間の母体感染ではなく,妊娠中の母体感染が子の知的障害と関連していたという結果は,妊娠中の母体感染が知的障害と関連するという説と矛盾しない結果となった。一方で,妊娠中の母体感染と子の自閉症の発症との関連は因果関係ではなく,むしろ遺伝子多様体や共通する環境などといった家族的な因子によって説明される可能性がある。COVID-19パンデミック後の研究では,SARS-CoV-2の妊娠中の母体感染が子へ与える影響についても考える必要があるだろう。

259号(No.1)2023年4月4日公開

(船山 道隆)

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