小児及び青少年におけるうつ病と自殺のリスクに対するスクリーニング:米国予防医療専門委員会へのエビデンスの報告と系統的レビューの更新

JAMA, 328, 1543-1556, 2022 Screening for Depression and Suicide Risk in Children and Adolescents: Updated Evidence Report and Systematic Review for the US Preventive Services Task Force. Viswanathan, M., Wallace, I. F., Middleton, J. C., et al.

背景

若年者において,うつ病や希死念慮,自傷行為は,機能障害や早期死亡と関連している。米国予防医療専門委員会(US Preventive Services Task Force)は,青少年におけるうつ病のスクリーニングを推奨する一方,スクリーニングの利益と害のバランスを評価するにはエビデンスが不足していると報告している。そこで本論文では,小児及び青少年におけるうつ病及び自殺リスクのスクリーニングに関するエビデンスをレビューした。

方法

PubMed,Cochrane Library,PsycINFO,CINAHLなどを用いて,2021年7月までに出版された英語論文の文献検索を行った。うつ病または自殺リスクのスクリーニングに関する,平均年齢18歳以下を対象とした研究を選択した。転帰には,妥当性のある評価尺度で測定したうつ病の症状,臨床的反応,寛解,自殺死亡,自殺企図,自傷,希死念慮,あらゆる理由による死亡,生活の質(QOL),機能,有害事象が含まれた。

結果

スクリーニングの精度に関する研究及び治療介入の無作為化対照試験(RCT)の計40件,54報の論文(11,220名)が抽出され,このうちうつ病の研究が21報(5,433名),自殺リスクの研究が19報(6,290名)であった。

うつ病については,スクリーニングによる転帰への直接的効果を報告した研究はなく,7報(3,281名)がスクリーニングの感度は0.59~0.94,特異度は0.38~0.96であると報告していた。心理療法によるうつ病治療は,症状の改善と関連しており,ベックうつ病質問票(Beck Depression Inventory)で評価を行った研究4報(471名)を統合した標準化平均差は-0.58[95%信頼区間(CI):-0.83--0.34],ハミルトンうつ病尺度で評価を行った研究3報(262名)を統合した平均差は-2.25(95%CI:-4.09--0.41)であり,臨床反応(3報で様々な閾値による統計学的に有意な結果)及び診断の消失[4報(395名)を統合した相対リスク=1.73(95%CI:1.00-3.00)]とも関連した。薬物療法は,抑うつ症状の改善[小児うつ病評価尺度改訂版(Children's Depression Rating Scale-Revised)で評価を行った3報(793名)を統合した平均差=-3.76(95%CI:-5.95--1.57)],寛解[3報(793名)を統合した相対リスク=1.20(95%CI:1.00-1.45)],良好な機能[小児総合評価尺度(Children's Global Assessment Scale)で評価を行った3報(793名)を統合した平均差=2.60(95%CI:0.78-4.42)]と関連していた。その他の転帰には統計学的に有意な差は認められなかった。

自殺リスクについては,スクリーニングの直接的な有益性を報告した研究はなく,2報のRCT(2,675名)からはスクリーニングの有害性は報告されていない。1報の研究(581名)がスクリーニングの感度は0.87~0.91,特異度は0.60と報告していた。16報のRCT(3,034名)が自殺リスクへの介入を報告し,RCT 4報(644名)で介入はベック絶望感尺度(Beck Hopelessness Scale)の低下と関連していた[平均差=-2.35(95%CI:-4.06--0.65)]。薬物療法とプラセボの間で,自殺関連の転帰への効果と有害事象における差は,統計学的に有意ではなかった。他の自殺関連の転帰に関する知見は,様々であるか統計学的に有意な差は認められなかった。

結論

間接的なエビデンスにより,いくつかのスクリーニング尺度はうつ病の検出に合理的で正確であることが示唆された。心理療法と薬物療法はうつ病に対してある程度の有益性をもたらし,統計学的に有意な有害性はなかったが,自殺リスクに対するスクリーニング及び介入に関するエビデンスは限定的であった。

259号(No.1)2023年4月4日公開

(谷 英明)

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