思春期の女子における自殺企図と内科的疾患の関連について

J PSYCHIATR RES, 155, 42-48, 2022 Relationship Between Suicide Attempt and Medical Morbidity in Adolescent Girls. Soullane, S., Chadi, N., Low, N., et al.

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背景

自殺企図は精神疾患と関連しているが,非精神疾患と自殺企図との関連についてはほとんどわかっていない。がんや自己免疫障害,心血管疾患は将来の自殺関連行動のリスクを高めるというエビデンスが増えつつある一方でその逆の可能性,すなわち自殺企図が後の身体疾患の指標となり得ることについての関心は低い。自殺企図を行った青少年の多くは精神疾患や物質使用,幼少期の問題を併発しており,それらは心血管疾患,糖尿病,喘息などの慢性疾患のリスクを高める危険性がある。

また,思春期の自傷行為は13年後までの死亡リスクを5.7倍に上昇させるという報告もあるが,他の医学的症状への関連についてはほとんど知られておらず,思春期の女性を対象とした研究は非常に少ない。今回,著者らは思春期の女子について30年以上追跡するコホート調査を行い,自殺企図と一般的で予防可能な非精神疾患の長期リスクとの関連を評価した。

方法

1989~2019年にカナダのケベック州で自殺企図により入院となった思春期の女子を対象としたマッチドコホート研究を計画し,ケベック州の全入院患者がまとめられている病院顧客登録調査のためのデータの維持と使用(Maintenance and Use of Data for the Study of Hospital Clientele registry)を用いて,20歳以前(8~19歳)に自殺企図で入院となったことが確認された,もしくはその可能性が高い女子8,086名を特定した。その各々について自殺企図で入院したことのない女子20名をマッチさせた。健康保険番号を使用し,2020年3月31日までの間,対象とその対照群を経時的に追跡調査し,更なる入院を確認した。

主な転帰指標は,一般的で予防可能な入院要因から成り,感染症,アレルギー障害,自己免疫疾患,心血管疾患,がん,非精神科原因による死亡などとした。

マッチングにおいては,年齢と年度に加え,基準時点の精神疾患,物質使用障害,社会経済的困窮も考慮した。

自殺企図のあった女子とその対照群について,1万人‐年当たりの入院率及び31年間の追跡後の入院の累積発生率を算出した。追跡日数を時間軸とした層別Cox比例ハザード回帰モデルを用いて,自殺未遂と各転帰との関連についてのハザード比 (HR)及び95%信頼区間(CI)を算出した。追跡は,最初の自殺企図による入院の時点から,最初の入院,死亡,または研究終了までとした。また,別のモデルで複数回の自殺企図,初回企図時の年齢,初回企図時に用いた方法と将来の入院のリスクとの関連を評価し,最初の自殺企図から5年未満,5~14年,15年以上という異なる時点における各結果のリスクを推定した。

結果

自殺企図を行った女子は,企図の回数,年齢,方法にかかわらず,入院率が高かった。対照群と比較して,1万人‐年当たりの入院率は,感染症153.4 vs 69.9,アレルギー障害27.0 vs 12.3,自己免疫疾患18.5 vs 12.9,心血管疾患34.7 vs 18.5,死亡2.3 vs 0.6であった(表)。調整モデルにおいては,感染症のリスクが1.55倍(95%CI:1.44- 1.68),アレルギー障害のリスクが1.72倍(95%CI:1.45- 2.05),心血管疾患による入院のリスクが1.31倍(95%CI:1.12-1.52),死亡リスクが3.11倍(95%CI:1.69-5.70)であった(表)。自己免疫疾患やがんについては自殺企図と入院率の関連はなかった。

対照群と比較して,2回以上の自殺企図を行った女子は感染症(2.36倍),アレルギー(3.11倍),心血管疾患による入院(2.87倍)のリスク及び,死亡リスク(9.99倍)の上昇が見られた。最初の自殺企図の年齢に関係なく,自殺企図はこれらの転帰と関連していた。

また,31年間の追跡調査後の入院の累積発生率は,自殺企図歴のあった女子ではマッチさせた対照群と比べて約2倍の上昇が認められた。

また,入院のリスクは企図後最初の数年間がより顕著であったが,自殺企図から15年以上経過しても感染症やアレルギーによる入院との関連が持続した。

結論

本結果は,自殺企図を行った思春期の女子では,内科的疾患の罹患率及び死亡率のリスクが高く,健康上の不利益を防ぐために,より緊密な臨床管理が有益であることを示唆している。

表. 思春期の自殺企図と未来の入院率の関連

259号(No.1)2023年4月4日公開

(渡邉 慎太郎)

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