米国における成人の自殺企図の遺伝的リスクと子どもの自殺行動の関連

JAMA PSYCHIATRY, 79, 971-980, 2022 Associations Between Genetic Risk for Adult Suicide Attempt and Suicidal Behaviors in Young Children in the US. Lee, P. H., Doyle, A. E., Silberstein, M., et al.

目的

米国の若者の自殺が増加しているが,子どもの自殺と遺伝的リスクの関連は不明であり,早期介入の障害となっている。成人の自殺企図(SA)のポリジェニックリスクスコア(PRS)が,子どものSAとも関連するかどうかを調べることを目的とし,①子どもにおいてSA PRS は希死念慮/自殺行動(STB)に関連しているのか,②もしSA PRSがSTBと関連しているのであれば,SA PRSの影響は,うつ病や注意欠如・多動症(ADHD)などの精神疾患の遺伝的リスクと独立したものであるか,③子どもの気質と精神病理学的問題は,子どものSTBに対するSA PRSの影響を仲介しているのか,について調査した。

方法

9~10歳の米国の子ども11,878名を10年間追跡したコホートであるAdolescent Brain Cognitive Development(ABCD)研究のデータを用いて,小児期の自殺リスク要因を調査した。希死念慮(SI)及びSAに関する報告は,基準時点とその後の2年間取得し,成人55万人を対象としたゲノムワイド関連研究で確認されているSA PRSと子どものSAとの関連を評価した。また,子どもの気質と精神病理学的問題が自殺におけるSA PRSの潜在的なメディエーターとなり得るか,について調査した。

結果

米国欧州系の子ども4,344名[女性2,045名(47.08%),平均(SD)年齢9.93(0.62)歳]のSAの生涯有病率は,基準時点から2年目までに約3倍上昇加した[基準時点:37名(0.85%),1年目:74名(1.7%),2年目:102名(2.35%)]。低い社会経済的状況,親の精神疾患既往/自殺歴,子どもの精神病理は,対照と比べてSI及びSAのある子どもでより多かった。

SA PRSとして定量化された遺伝的易罹患性と,SI及びSAの生涯経験との関連を調べたところ,子どものSAに対するSA PRSのエフェクトサイズ[すなわち,オッズ比(OR)]は,1.34~1.43であり,SA PRSと子どものSAの間に有意な関連が見られた[OR(95%信頼区間)は1年目で1.39(1.11-1.75)(補正p=2.73×10-2),2年目で1.43(1.18-1.75)(p=1.85×10-3)]。これらの関連は,うつ病及びADHDの遺伝的リスクとは独立していた。一方,SA PRSとSIとの関連は,どの期間でも認められなかった。

また,媒介分析を行ったところ,子どもの憂鬱な気分(OR=2.46)と攻撃的な行動(OR=1.72)は,最も重要な部分メディエーターであった(共にp<1×10−16)。注意の問題,規則違反の行動,社会的問題などの子どもの行動上の問題も,SA PRSとSAの関連付けを部分的に仲介した。

子どもの社会経済的背景,特にひとり親(OR=2.2,p=6.74×10−3)と親が大学教育を受けていないこと(OR=1.78,p=4.66×10−2)は,子どものSAの最も重要な相関因子であった。

結論

米国最大の小学生サンプルを使用し,子どものSTBの遺伝的相関を調べた。自殺の遺伝的リスクは成人と子どもで共通部分も多く,抑うつや攻撃性とも関連するが,精神疾患の遺伝的リスクとは独立していた。

成人のSAリスクの遺伝的関連は,10歳と11歳という小児期に検出され,その後1年を通してより強くなった。成人の自殺の遺伝的傾向は,小児期から抑うつ症状や不適応,自殺関連行動として表現されている可能性が考えられた。

遺伝子データを組み込むことで,自殺のリスクにさらされている子どもの識別が改善されるかどうかを検討する研究が更に必要である。

259号(No.1)2023年4月4日公開

(石﨑 潤子)

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