中年期の自殺:社会経済的・精神医学的・身体医学的危険因子の系統的レビューとメタ解析

J PSYCHIATR RES, 154, 233-241, 2022 Midlife Suicide: A Systematic Review and Meta-Analysis of Socioeconomic, Psychiatric and Physical Health Risk Factors. Qin, P., Syeda, S., Canetto, S. S., et al.

背景

中年期の自殺は,近年世界各地で増加傾向にあり,注目を集めているが,予防の指針となる知識は限られている。

目的

本研究の目的は,中年期の自殺に関する研究の概要を提供すること,中年期の自殺における社会経済的・精神医学的・身体医学的危険因子の割合を明らかにすること,中年期にこれらの因子によってもたらされる自殺のリスクを統合解析によって提示することである。

方法

PRISMAガイドラインに基づき,MEDLINE,Embase,PsycINFO,Scopus,Web of Scienceから,35~65歳を対象とし,個人レベルのデータを用いた,中年期の自殺者における曝露因子の割合や相対リスクを報告した英語文献を検索した。それらの系統的レビューとメタ解析(統合解析)を実施した。

結果

中年期の自殺とその関連因子に関する62報の研究が同定された。全ての研究が高所得国で実施されたものであり,80.6%が人口登録データを使用していた。

メタ解析(統合解析)における自殺者の曝露因子の割合は,社会経済的因子においては低所得が56.3%,失業が43.2%と顕著であった。精神医学的因子においては,何らかの精神障害は自殺者の57.8%で報告され,気分障害とアルコール及び物質使用障害(いずれも29.8%)が最も高く,不安症(14.6%),パーソナリティ障害(7.1%),精神病性障害(6.8%)が続いた。身体医学的因子においては,何らかの身体疾患の有病率は27.3%であった。

リスク比は,社会経済的因子では失業の3.91[95%信頼区間(CI):2.72-5.59],別居・離婚の3.26(95%CI:2.67-4.00),低所得の2.26(95%CI:1.16-4.41)が高値であった。社会経済的因子のみ男女差を比較したが,いずれも男性の方がわずかに高かった。精神医学的因子は,何らかの精神障害のリスク比が11.68(95%CI:5.82-23.47)であり,中年期の自殺と強い関連があると言えた。疾患別には,精神病性障害が13.80(95%CI:4.83-39.39)と最も高く,気分障害の12.59(95%CI:8.29-19.12),パーソナリティ障害,認知症,不安症が続き,アルコール及び物質使用障害の4.63(95%CI:1.27-17.10)が最も低かった。身体医学的因子は全体で2.95(95%CI:1.27-6.86)であった。

考察

雇用や結婚の不全は自殺リスクを3~4倍に引き上げた。これらは中年期の,特に男性において社会的アイデンティティに繋がるため,その不全が強烈な自己破壊的反応に繋がるものと推定された。また自殺者における身体疾患の有病率も27.3%に達し,身体疾患による生活の質の低下や心理的苦痛を窺わせた。精神医学的因子の有病率57.8%とリスク比11.83は突出して高く,全年齢の自殺者を対象とした研究と比較しても遥かに高かった。気分障害,主にうつ病が中年期の自殺と最も強い関連を持つようであった。アルコール及び物質使用障害も,自殺関連のリスクは比較的低かったが,この年齢層における慢性化の様相や他の障害との高い併存性を鑑みると,中年期の自殺に対する実際の影響は強いものと考えられた。逆に,中年期自殺者の42.2%が精神障害と診断されていなかったことも無視できない。

本研究の長所としては,幅広い検索方法を用い,サンプルサイズにも制限を設けず,19もの国々の研究を集めたことが挙げられる。一方,限界としては,中年期の年齢を広く取ったこと,特定集団に限定した研究を排除したこと,交絡因子を調整しなかったこと,データの不足から十分に性別・民族・地域による差異を検討できなかったこと,英語論文に限定したこと,高所得国の研究に限定されてしまったことが挙げられる。

結論

中年期の自殺は,この年齢層によく見られる社会経済的困難や身体的・精神的疾患と強く関連している。今後の研究では,危険因子間の相互作用,性別と民族の交差性を考慮し,低中所得国からのデータを含めるべきである。

259号(No.1)2023年4月4日公開

(下村 雄太郎)

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