妊婦の心理的苦痛を対象としたマインドフルネス介入による新生児の胎便細菌叢への効果:無作為化対照試験

PSYCHONEUROENDOCRINOLOGY, 145, 105913, 2022 Effects of a Maternal Mindfulness Intervention Targeting Prenatal Psychological Distress on Infants’ Meconium Microbiota: A Randomized Controlled Trial. Zhang, X., Mao, F., Li, Y., et al.

背景

出産前における母親の心理的苦痛への曝露は,子どもにおけるその後の幼児期の成長や思春期の心理社会的な問題と関連している。しかし,その生物学的機序はわかっていない。

動物実験は,母体のストレスが子の腸内細菌叢を変化させるという仮説を支持している。ヒト対象の臨床研究も行われてきたが,これまでの研究は全て観察研究であり,様々な交絡因子が母体のストレスと新生児の腸内細菌叢の関係に影響を与えていたかもしれない。

著者らはこれまで,マインドフルネス介入が妊婦の抑うつ,不安,ストレスや疲労を軽減させる効果があることを示す研究を行ってきた。本研究はマインドフルネス介入が新生児の胎便細菌叢に与える影響を調べた無作為化対照試験である。

方法

18歳以上,妊娠12~20週,エジンバラ産後うつ病質問票(Edinburgh Postnatal Depression Scale:EPDS)9点以上あるいは全般不安症質問票7項目版(Generalized Anxiety Disorder 7-item:GAD-7)5点以上の妊婦を対象とし,160名を介入群と対照群に無作為に割り付けた。介入群は通常の周産期ケアと,六つのマインドフルネス介入のセッションを受けた。介入プログラムは六つのモデュールで構成され,各モデュールは1週間単位で,各週の初日には10~20分のビデオによる説明を受け,残りの6日間でホームワークを行う内容とした。対照群は通常の周産期ケアのみを受けた。訓練を受けたスタッフが産後48時間以内の胎便を採取し,24時間以内に-80℃で保存し,その後解析した。

Kruskal-Wallis順位和検定を用いて介入群と対照群のα多様性の違いを調べた。類似度行列分析(analysis of similarities:ANOSIM)を用いて介入のβ多様性への影響を調べた。

結果

解析には介入群66名,対照群64名の合計130名のデータを対象とした。母親の抑うつ(p=0.001)と不安(p<0.001)の評点は,対照群と比較して介入群で有意に低かった。

両群間でα多様性に有意な差は認められなかったが,β多様性の指標に有意な差が認められた(R=0.02,p=0.03)。対照群と比べて介入群ではBifidobacteriumとBlautiaが多く,Staphylococccusが少なかった。

考察

本研究は妊娠中の心理的苦痛に対する心理的介入が新生児の胎便細菌叢に与える影響を調べた初めての介入研究である。介入群で多く認められたBifidobacteriumは,良好な健康状態との関連,新生児の神経精神発達との関連が示されている菌である。Blautiaは炎症の抑制効果と関連し,うつ病患者における低下が示されている菌である。本研究では介入群における抑うつや不安の変化と特定の属との関連は見出せなかったが,マインドフルネス介入が新生児の腸内細菌叢へ及ぼす効果は想定よりも複雑だったかもしれない。たとえば,母の主観的な心理的な苦痛よりも,コルチゾールなど客観的なストレス指標や免疫系,自律神経系,エピジェネティクスなどの指標が新生児の腸内細菌叢と関連していたかもしれない。

本研究の限界としては,胎便を1時点でしか評価していないこと,母親の症状評価を自記式で行ったこと,母親のコルチゾールや腸内細菌叢の評価をしていないことなどが挙げられる。

結論

妊婦の心理的苦痛を和らげるマインドフルネス介入は新生児の胎便細菌叢を変化させる。その作用機序については更なる研究が必要である。

259号(No.1)2023年4月4日公開

(髙宮 彰紘)

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