妊娠中のベンゾジアゼピン系睡眠導入剤への曝露による先天奇形や周産期有害事象のリスク:系統的レビュー及びメタ解析

ACTA PSYCHIATR SCAND, 146, 312-324, 2022 Hypnotic Benzodiazepine Receptor Agonist Exposure During Pregnancy and the Risk of Congenital Malformations and Other Adverse Pregnancy Outcomes: A Systematic Review and Meta-Analysis. Grigoriadis, S., Alibrahim, A., Mansfield, J. K., et al.

背景と目的

妊娠中のベンゾジアゼピン系睡眠導入剤(HBRA:一般に非ベンゾジアゼピン系睡眠薬に分類されるゾルピデム,ゾピクロンなどのz-drugを指す)の服薬が新生児に与える影響については不明な点が多い。現状では,曝露群としてベンゾジアゼピン系睡眠薬も含んだ系統的レビューが1件あるのみで,それによれば,新生児奇形のリスクはないものの,早産など周産期の有害事象のリスク上昇との関連が示唆されている。また,ベンゾジアゼピン系睡眠薬と抗うつ薬の併用は先天奇形のリスクを有意に上昇させるという報告もあるが,HBRAと抗うつ薬を併用した場合のリスクは不明である。

今回著者らは,妊娠中にHBRAを単独で服薬した場合,あるいは抗うつ薬を併用した場合の,先天奇形あるいはその他の周産期有害事象のリスクについて系統的レビュー及びメタ解析を行った。その際,研究の質,他の向精神薬への曝露,精神疾患などが調整変数として結果に影響しているかどうかを検証した。

方法

複数のデータベースを用いて2021年1月31日までの英語論文を抽出した。妊娠中のHBRA曝露による児の先天奇形あるいは周産期有害事象のリスクを評価したコホート研究で,非曝露群を対照群として設定している研究のみを対象とし,統合されたオッズ比(OR)推定値を算出した。

結果

48,640報の検索結果のうち,25報の文献全文の適格性を評価し,最終的に7報の文献がメタ解析の対象となった。

先天奇形として心奇形のリスクを評価している5報を統合した解析の結果,妊娠第一期におけるHBRA曝露の先天奇形に対するオッズ比(OR)は0.87(曝露群34/1,765,非曝露群42,767/1,309,539)であり,有意な差は得られなかった。また研究の質,他の向精神薬の服薬状況,精神疾患の種類による調整はORに影響を与えず,これらは有意な調整変数とは見なされなかった。

同様に,妊娠中のいずれかの期間におけるHBRA曝露を評価した5報の研究を集計した結果,早産のリスクは有意に上昇し,ORは1.49[95%信頼区間(CI):1.19-1.86]であり,いずれの調整変数も有意ではなかった。

妊娠中のいずれかの期間におけるHBRAへの曝露により,出生時低体重[OR=1.51(95%CI:1.27-1.78)]及び在胎不当過小[OR=1.34(95%CI:1.22-1.48)]のリスクも上昇した。

呼吸窮迫,APGAR評点及びNICU入室のリスクについてはサンプル数が小さすぎて有意な集計ができなかった。HBRAと抗うつ薬を併用した場合の先天奇形のリスクについての報告が3報抽出されたものの,2報が同じサンプルに基づいていたため,集計できなかった。

先天奇形と早産のリスクについては,ファンネルプロットの結果が非対称であり出版バイアスの存在が示唆されたものの,変量効果モデルを用いて算出した修正ORはもとの値とほぼ同値であった。

考察

本研究の結果から,妊娠中のHBRAの服薬は,新生児の先天奇形とは有意な関連はないものの,新生児の早産,出生時低体重,在胎不当過小のリスクを有意に上昇させる可能性がある。この結果は,ベンゾジアゼピン系睡眠薬と新生児有害事象との関連について評価した先行研究の結果とも一致している。

本研究の限界は,元のサンプルがコホート研究であるため,喫煙など他の重要な交絡因子が十分に考慮されていないことである。

259号(No.1)2023年4月4日公開

(荻野 宏行)

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