【from Japan】
2011年の東日本大震災後の初動対処要員に見られた心的外傷後ストレス症状の軌跡におけるリスクとレジリエンス:7年間の前方視的コホート研究

BR J PSYCHIATRY, 221, 668-675, 2022 Risk and Resilience in Trajectories of Post-Traumatic Stress Symptoms Among First Responders After the 2011 Great East Japan Earthquake: 7-year Prospective Cohort Study. Taku Saito, Florentine H. S. van der Does, Masanori Nagamine, Nic J. van der Wee, Jun Shigemura, Taisuke Yamamoto, Yoshitomo Takahashi, Minori Koga, Hiroyuki Toda, Aihide Yoshino, Eric Vermetten, Erik J. Giltay

斉藤 拓 先生(写真)

防衛医科大学校 防衛医学研究センター 行動科学研究部門

防衛医科大学校 防衛医学研究センター 行動科学研究部門 長峯 正典 先生

斉藤 拓先生 写真

背景

災害時の初動対処要員は,心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症するリスクがある。PTSD症状の軌跡は,たとえ同じような出来事にさらされたとしても,個人によって異なる。欧米諸国以外の初動対処要員において,こうした心的外傷後ストレス症状の軌跡はまだ報告されていない。

目的

津波と原発事故という甚大な被害をもたらした2011年の東日本大震災の初動対処要員において,PTSD症状の軌跡と重症化の危険因子を探索することを目的とした。

調査方法

7年間の縦断的コホート研究として,東日本大震災に派遣された55,632名の陸上自衛隊員が登録された。PTSD症状はImpact of Event Scale-Revised(IES-R)を用いて評価した。PTSD症状の軌跡については,潜在成長混合モデルを用いて同定した。PTSD症状の推移の異なる各軌跡に対し,九つの潜在的危険因子の関連を多項ロジスティック回帰分析により評価した。

結果

5種類のPTSD症状の軌跡が同定された。すなわち,レジリエント群(54.8%),回復群(24.6%),不完全回復群(10.7%),晩発群(5.7%),慢性群(4.3%)であった(図)。レジリエント群以外の4群における主な危険因子は,高齢であること,自身の被災経験,労働条件であった。労働条件には,遺体を扱う業務,放射線被曝のリスクを伴う業務,長期間の派遣,派遣終了後の休暇を取得しない,または遅い時期に取得すること,派遣終了後に時間外労働が長期間続くことなどが含まれていた。

結論

東日本大震災の初動対処要員の多くはレジリエントであり,PTSD症状をほとんど,あるいはまったく呈していなかった。一方,少数ではあるが,晩発性または慢性に症状を呈した群が確認された。PTSD症状を呈するリスクのある個人への予防・早期発見・早期介入のための政策を策定するにあたり、本研究で同定された危険因子は有用な情報となると考えられる。

図. Impact of Event Scale-Revised(IES-R)評点の縦断的な軌跡

259号(No.1)2023年4月4日公開

(斉藤 拓、長峯 正典)

このウィンドウを閉じる際には、ブラウザの「閉じる」ボタンを押してください。