就労不能のリスクの低下を目的とした抗精神病薬使用の有効性について:スウェーデンの全国コホートで初回エピソードの非感情性精神病患者21,551名を追跡し,被験者内分析を行った結果

AM J PSYCHIATRY, 179, 938-946, 2022 Effectiveness of Antipsychotic Use for Reducing Risk of Work Disability: Results From a Within-Subject Analysis of a Swedish National Cohort of 21,551 Patients With First-Episode Nonaffective Psychosis. Solmi, M., Taipale, H., Holm, M., et al.

背景と目的

抗精神病薬の長期服薬が精神病性障害の再燃リスクを低下させることはよく知られているが,対して機能障害,特に就労不能との関連は十分にわかっていない。無作為化対照試験(RCT)は,追跡期間の短さ,組み入れ基準が狭くサンプルが典型的なものではないこと,選択バイアスなどのために就労不能の解析が難しく,むしろ国民登録データベースを用いた研究が適切である。著者らは,国民登録データベースを用いて,経口薬及び持効性注射剤の抗精神病薬と就労機能の長期予後との関係について調査した。

方法

スウェーデンの国民登録データベースを用いて,非感情性精神病の初回エピソードと診断された16~45歳の患者を,2006~2016年の期間で追跡した。

曝露因子は主要な第二世代抗精神病薬及び持効性注射剤とし,主要転帰である就労不能は傷病休暇及び障害年金の取得で代用した。

時間経過で変化する因子で調整した層別Cox回帰モデルを用い,また,選択バイアスを避けるため,被験者自身を対照群とした被験者内分析を行った。

結果

21,551名の被験者の追跡を行った。平均年齢は29歳で,60.7%が男性,第一世代移民が31.6%であった。追跡期間の中央値は4.8年であり,全体では初回エピソード後の被験者の45.9%に追跡期間中の就労不能が認められた。

同一被験者内で,抗精神病薬を使用しない時期に比べて,使用している時期の就労不能のリスクには35%の有意な低下が認められた[調整ハザード比(aHR)=0.65,95%信頼区間(CI):0.59-0.72]。治療薬別では,最もaHRが低かったのは持効性注射剤(aHR=0.46,95%CI:0.34-0.62)で,それに経口アリピプラゾール(aHR=0.68,95%CI:0.56-0.82),経口オランザピン(aHR=0.68,95%CI:0.59-0.78),経口リスペリドン(aHR=0.72,95%CI:0.59-0.89)と続いた。曝露として最も多く用いられた経口のオランザピンを対照として比較すると,就労不能のリスクを有意に低下させたのは持効性注射剤のみであり(aHR=0.68,95%CI:0.50-0.94),逆に多剤併用はリスクを有意に上昇させた(aHR=1.23,95%CI:1.02-1.50)。また,持効性注射剤は,それぞれ同成分の経口薬に比べて,就労不能のリスクを有意に低下させた(aHR=0.66,95%CI:0.49-0.90)。

90日を超える長期傷病休暇取得者のみを対象に感度分析を行ったところ,抗精神病薬を使用しない時期に比べて,使用している時期の就労不能のリスクに45%の有意な低下が認められた(aHR=0.55,95%CI:0.47-0.64)。

初回エピソードからの経過期間で分類して感度解析(コホート組み入れの過去1年間に抗精神病薬を使用していない参加者のみを対象とした)を行ったところ,就労不能のリスクのaHR(95%CI)は,診断後2年未満で0.64(0.50-0.82),2~5年の間で0.63(0.50-0.79),5年以降では0.59(0.46-0.75)であった。

考察

初回エピソードの非感情性精神病の患者では,抗精神病薬を使用しない場合に比べて,各個人内での就労不能のリスクが低下し,その程度は持効性注射剤で50%超,経口薬では30%程度であった。特に重要なのは,診断から5年以上経過した段階でも同様の傾向が持続したことである。

本研究の限界は,職業リハビリなどの併用された非薬物治療の情報やアルコール使用など就労に影響を与える被験者因子についての情報がないこと,統合失調スペクトラム障害の背景が一様ではないこと,薬物の用量反応性には言及していないため因果関係は不明なことなどである。

今回の結果を踏まえると,初回精神病エピソード後には少なくとも5年は抗精神病薬による治療を行うことが望ましく,特に持効性注射剤を選択すべきかもしれない。

260号(No.2)2023年5月30日公開

(荻野 宏行)

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