早期非改善者に対する抗精神病薬のamisulprideまたはオランザピンへの変更:統合失調症患者を対象とした無作為化二重盲検試験

SCHIZOPHR BULL,48, 1273-1283, 2022 Changing the Antipsychotic in Early Nonimprovers to Amisulpride or Olanzapine: Randomized, Double-Blind Trial in Patients With Schizophrenia. Heres, S., Cordes, J., Feyerabend, S., et al.

はじめに

抗精神病薬を投与して2週間後に患者が臨床的に有意な改善を示さなかった場合,同じ薬を継続しても多くは反応しないというエビデンスが,この10年に蓄積された。しかし,抗精神病薬の切り替えが有効なのか,それとも初期に改善が認められなければ使用薬と関係なく予後が不良であるのかはいまだ不明である。

理論的には,ある作用機序に反応しなかった場合,異なる受容体結合特性を持つ薬剤に切り替えることがより効果的と考えられる。本研究では,D2 /5-HT2A 拮抗薬のオランザピンと選択的D2 /D3 and 5-HT7 拮抗薬のamisulpride*を切り替え薬として選択した。

方法

対象は,統合失調症,統合失調感情障害,統合失調症様障害のDSM-Ⅳ基準を満たす18~65歳の患者である。急性増悪があることを保証するために,陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)総評点は75点以上,PANSS陽性成分因子群(P1,G9,P3,P6,P5,G12)の少なくとも2項目はスクリーニングと基準時点の両方で少なくとも4(中程度),臨床全般印象度-重症度(CGI-S)は組み入れ時に4以上であることとした。更に,登録前7日以内に入院などの介護度の上昇があることとした。除外基準は,過去に6~8週間の治療が無効であったこと,または試験開始前の2週以降からオランザピン,amisulprideいずれかによる治療を継続し,スクリーニングから基準時点にかけてPANSS総評点が25%以上減少したこととした。その他,自傷・他害のリスクの切迫した者,妊娠,物質依存のある者なども除外した。

最大3日間のスクリーニングの後,第Ⅰ相試験では,患者はamisulprideまたはオランザピンによる14日間の二重盲検治療に1:1の割合で無作為に割り付けられた。投与量は3日以内にamisulpride 600~800mg/日,オランザピン15~20mg/日に漸増された。その後,副作用対策として,amisulprideは200~800mg/日,オランザピンは5~20mg/日の範囲で投与量を調整できることとした。第Ⅰ相試験終了時(14日目)にPANSS基準時点の評点が25%以上改善した患者(いわゆる「早期改善者」)は,同じ化合物を用いた二重盲検治療を6週間第Ⅱ相試験で継続した。改善しなかった患者は,同じ薬剤を継続投与するか,第Ⅰ相と同じ用量範囲でもう一方の薬剤に変更するかのいずれかに,二重盲検法で再無作為化した。

主要評価項目は8週間の症状寛解とした。

全ての効能の転帰について,治療企図(Intention to treat:ITT)方式を用いた。切替群と非切替群の主要転帰を比較するため,「寛解」を従属変数とし,治療の「切替」(有/無)及び第3訪問時のPANSS総評点を独立変数とするロジスティック回帰モデルを使用した。多重代入法(MI),last observation carried forward(LOCF),完了者のみの各解析,更にパー・プロトコール解析を実施した。

結果

合計355名の患者が登録された。患者の平均のCGI評点は5.2,PANSS総評点は99.8で,統合失調症の妄想型が最も多く(72.5%),平均罹病期間10.6年,平均年齢39.8歳,47%は女性であった。合計42名(12%)の患者が第Ⅰ相の途中で脱落した。第Ⅱ相に移行した282名のうち,142名(50%)は基準時点からのPANSS総評点の減少率25%以下であった。

終了時点において,切替群(60名中41名,68%)は維持群(55名中25名,46%)よりも有意に多く症状寛解を示した[MIの結果は,オッズ比(OR) 3.01,95%信頼区間(CI):1.35-6.72,p=0.01]。パー・プロトコール解析[OR 3.18,95%CI:1.38-7.35,p=0.01;59名中40名(68%)の切替群 vs 53名中25名(47%)の維持群]及びLOCF解析(OR 3.17,95%CI:1.55-6.49,p=0.002)でも,結果は一貫していた。追加解析では,初期治療と切替/維持の間に交互作用は認められなかった(p=0.85)。これは,抗精神病薬の切り替えによる有効性が,試験第Ⅰ相で患者が最初に割り付けられた実際の薬剤に依存しないことを示唆している。

考察

Amisulprideまたはオランザピンによる2週間の治療で基準時点からのPANSSの減少率が25%未満であった統合失調症患者は,他の薬剤に切り替えると,更に6週間の抗精神病薬治療で症状寛解に至る確率が高くなることが示された。この切り替え戦略は安全であると思われるが,明確な優越性は8週間でしか認められていないため,更に長期間の試験が必要である。

*日本国内では未発売

260号(No.2)2023年5月30日公開

(野村 信行)

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