慢性統合失調症患者における抗精神病薬減量・中止後の精神病再燃の危険因子:無作為化対照試験のメタ解析

SCHIZOPHR BULL, 49, 11-23, 2023 Risk Factors for Psychotic Relapse After Dose Reduction or Discontinuation of Antipsychotics in Patients With Chronic Schizophrenia. A Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials Bogers, J. P. A. M., Hambarian, G., Schmidt, N. W., et al.

背景と目的

抗精神病薬による維持療法は精神病の再燃を防ぐが,抗精神病薬を減量あるいは中止した患者のかなりの割合で,維持療法群よりも全体的な機能の回復が認められたとする研究もある。このため,慢性統合失調症患者においては抗精神病薬の減量あるいは中止も選択肢として検討される。本研究では,慢性統合失調症患者における抗精神病薬の減量・中止と維持療法を比較した複数の無作為化対照試験(RCT)を対象として,再燃の相対リスク(RR)と危険因子を調べた。

方法

MEDLINE,EMBASE,PsycINFOの系統的検索と手作業によって,維持期統合失調症患者における抗精神病薬減量・中止後の再燃率を報告した1950年1月~2021年1月の RCTを検索した。同定された研究それぞれについて1人‐年当たりのRRと95%信頼区間(CI)を算出し,再燃の潜在的危険因子の特定を目指した。

結果

47報のRCT(54の患者群,1,746人‐年)が同定された。維持療法と比較して,減量・中止を実施した場合の精神病再燃のRR(95%CI)は,1人‐年当たり2.3(1.9-2.8)であった。中止群[2.6(2.1-3.2)]と減量群[1.8(1.3-2.4)]の間にも差が認められた(p=0.034)。ただし,減量群の中でも最終用量が3mgHE(ハロペリドール換算)/日未満の群のRRは2.9(1.9-4.4)と,中止群と同等であったが,3mgHE/日超の群のRRは1.2(0.9-1.5)と維持療法群と同等であった(p<0.001)。また,再燃のRRは減量期間によっても変化し(p=0.022),RR(95%CI)は,0週間または突然の減量では2.4(1.9-3.0),1~10週間の減量では2.3(1.6-3.2),10週間以上の減量では1.0(0.6-1.8)であり,10週間以上かけた減量群は維持療法群と同等であった。

減量群に限定した解析(27の患者群)では,最終用量5mgHE/日未満(RR=2.2,95%CI:1.5-3.4)で5mgHE/日以上(RR=1.2,95%CI:0.9-1.6)の約2倍にも及ぶリスクが認められ(p=0.016),5mgHE/日以上の群は維持療法群と有意差は認められなかった。急激な減量を実施した患者群は二つしかなかったため,緩やかな減量との比較はできなかった。減量の期間が異なる研究についても同様であったが,10週以上かけた減量群は維持療法群と有意差がなかった。持効性注射剤(LAI)(RR=1.4,95%CI:0.9-2.1)は,経口薬(RR=2.4,95%CI:1.7-3.3)と比較して減量に伴う再燃リスクが低く(p=0.046),維持療法群と有意差はなかった。

中止群に限定した解析(25の患者群)では,減量期間が10週間以上の試験はなく,また突然の投与中止も緩やかな投与中止もRRに有意な影響を与えなかった。精神病再燃のリスクを高める他の要因は年齢と罹病期間・追跡期間であり,RR(95%CI)は,42歳以下[3.4(2.3-5.0)]は42歳以上[2.0(1.6-2.7)]よりも(p=0.042),罹病期間15年未満[2.8(2.1-3.7)]は15年超[1.8(1.3-2.5)]よりも(p=0.038),追跡期間16週間未満[4.7(2.8-7.9)]は16週間以上[2.3(1.9-2.7)]よりも(p=0.016),高かった。

考察

抗精神病薬の適正維持量は3~5mgHE/日であると考えられ,再燃リスクの用量関連パターンは再燃が抗精神病薬の受容体占有率の変化に対応することを強く示唆した。ただし,急速な中止が顕著な有害事象を引き起こすことを考えると,最終用量よりも減量の過程の方が再燃リスクにより大きな影響を与える可能性もある。

LAIと経口薬の比較,1ヶ月ごとと3ヶ月ごとのLAIの比較でも,緩やかな減量は再燃を防ぐ傾向にあった。緩やかな減量であれば3~5mgHE/日より低い用量での維持が可能になるかもしれない。しかし,減量に10週間以上かけた試験は6報しかなく,いずれも減量試験で,最終用量も5mgHE/日超であったため,結論を出すには不十分であった。また,抗精神病薬の離脱に伴う再燃様症状が影響を与えた可能性も否定できない。

260号(No.2)2023年5月30日公開

(下村 雄太郎)

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