統合失調症の陰性症状に関する試験におけるプラセボ反応:エビデンスの批判的再評価

SCHIZOPHR BULL, 48, 1228-1240, 2022 Placebo Response in Trials of Negative Symptoms in Schizophrenia: A Critical Reassessment of the Evidence. Czobor, P., Kakuszi, B., Bitter, I.

背景

現在使用できる抗精神病薬は,統合失調症の陰性症状に対してほとんど効果がない。専門家たちは陰性症状の臨床試験には,特異的な組み入れ基準や,改善を得るのに十分な長さの試験期間,確立された評価などを採用する,特別な方法が必要と考えている。

過去のメタ解析ではamisulpride*が陰性症状に唯一効果のある抗精神病薬であると報告されているが,陰性症状に効果があったとされる試験は全て2000年代以前に行われたものである。2002~2017年の報告が含まれた他のメタ解析では陰性症状に対するプラセボの非常に大きなエフェクトサイズが報告されている(Cohen’s d=2.909)。しかし,陰性症状の試験でこれほど大きなプラセボ効果が認められるとは臨床的に考えにくい。その理由として,含まれた研究の患者組み入れ基準が非常に厳しいため,症状の重症度に大きな変化が認められそうもないことや,治療抵抗例では心理的要因(プラセボ反応の根底にあると考えられている)などの非特異的効果が小さい可能性があること,また含まれた研究ではプラセボ群で試験期間中に陰性症状がほぼ消失していること,などがある。

今回の研究の目的は,過去の報告や新たな報告について批判的に再評価し,アップデートすることである。

方法

対象となった報告は,①重度な陰性症状に焦点を当てているもの,②二重盲検無作為化プラセボ対照研究であるもの,③単剤,もしくは上乗せによる治療を行ったものとした。陰性症状が主たる治療介入の対象となったのは2000年代になってからであるため,2022年1月までの報告を含めた。加えて,プラセボ反応の予測因子を調べるためにメタ回帰分析を行った。

結果

合計24報から25研究(上乗せ研究21件,単剤研究4件)がメタ解析に含まれた。全ての研究を含めたプラセボ効果のエフェクトサイズ(Cohen’s d)は0.6444(SE=0.091)であり,上乗せ研究で0.5898(SE=0.077),単剤研究で0.6993(SE=0.167)であった。

メタ回帰分析では,単変量解析で実薬群の割合が多いこと(p=0.010),プラセボ群に割り付けられた被験者数が多いこと(p=0.033)がプラセボ反応の大きさと関連していた。また罹病期間が長いことがプラセボ反応の小ささと関連傾向があった(p=0.61)。また,開発会社出資による研究であること(p=0.007)と研究サイズが大きいこと(p=0.011)がプラセボ反応の大きさと関連していた。

多変量解析では実薬群の割合が大きいこと(p=0.049)と,試験期間が短いこと(p=0.014)がプラセボ反応の大きさと関連していた(図)。

考察

本研究の結果は過去のメタ解析で報告されたプラセボ反応のエフェクトサイズを大きく下方修正することとなった。この違いは,過去の研究におけるエフェクトサイズの計算が不正確であったことが原因と考えられる。メタ回帰分析では実薬群の割合が大きなプラセボ反応と関連していたが,このことは統合失調症だけでなくうつ病に関しても同様であることがよくわかっている。この予測因子は様々な疾患の臨床試験の方法論的因子として考慮される必要があるかもしれない。また,試験期間の短さが大きなプラセボ反応と関連しているため,陰性症状の変化を確認するためにはより長い試験期間が望ましい可能性がある。これらの因子に関する知見は,統合失調症の陰性症状に対する新薬の開発や試験デザインに重要な示唆を与えると考えられる。

*日本国内では未発売

図.試験期間の長さ及びプラセボ群に対する実薬群の比率と陰性症状へのプラセボ反応エフェクトサイズの相関

260号(No.2)2023年5月30日公開

(岩田 祐輔)

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