統合失調症の予後:20年追跡研究の系統的レビューとメタ解析,メタ回帰分析

SCHIZOPHR RES, 250, 152-163, 2022 The Prognosis of Schizophrenia: A Systematic Review and Meta-Analysis With Meta-Regression of 20-Year Follow-Up Studies. Molstrom, I.-M., Nordgaard, J.,Urfer-Parnas, A., et al.

はじめに

これまでのところ,統合失調症の超長期予後にのみ焦点を当てた系統的レビューやメタ解析はない。本研究では,統合失調症の超長期の転帰を探るために,少なくとも20年にわたる統合失調症の前方視的追跡研究全てを対象とした,初めての系統的レビューとメタ回帰分析を行った。

方法

PRISMAガイドラインに従い,2021年4月21日,PubMed,PsycInfo,EMBASEで20年以上の統合失調症の長期追跡研究に関する文献を系統的に検索した。研究の適格性については,以下の包括的基準を用いた。①査読付きの前方視的コホート研究で,英語であること。後方視的な報告のみによるものは不可。②20年以上の追跡期間を有すること。③基準時点と追跡時の評価には対面式の臨床評価を含むこと。④診断方法に関する情報を有すること。診断が後方視的のみで行われている研究は除外。⑤統合失調症,統合失調感情障害,統合失調症様障害,非感情性精神病の診断を対象としていること。精神病の種類を区別していない研究は除外。⑥明確に定義された転帰の指標があること。⑦追跡症例数が最低10名であること。⑧対象は子どもに限らない。著者2名(I.M.及びR.H.)が独立してタイトルと要旨を審査し,疑わしい研究は全文審査した。

本研究では以下の定義を用いた。回復の定義は臨床的寛解と社会的寛解の両方とし,いずれかが2年以上続いていることとした。良好な転帰の定義は,臨床的寛解及び/または社会的寛解が存在することとした。臨床的寛解の定義は,「統合失調症の寛解」作業グループが構築した「症状がない,または軽い」,あるいは陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)や簡易精神症状評価尺度(Brief Psychiatric Rating Scale:BPRS)などの評点が軽度以下であることとした。社会的寛解の定義は社会的機能が良好または非常に良好であることとし,通常の社会生活やWHO障害評価表(WHODAS)の社会的機能など,様々な結果測定から評価した。中程度の転帰の定義は,中程度の症状及び/または中程度に損なわれた社会機能(例:パートタイム雇用)とした。転帰不良の定義は,症状が重度または不安定で,社会機能が低下した状態(例:孤立した生活や入院)とした。

対象研究の一般的・臨床的・社会的転帰を全て抽出し,その定義とカットオフの使用も確認した。転帰は平均値(%)で報告した。

メタ解析では,「回復」,「良好またはそれ以上」(「回復」も含む),「中等度またはそれ以上」(「回復」「良好以上」も含む)の三つの変数で長期転帰を検討した。三つの変数のそれぞれについて独立してメタ解析を行い,各変数を「はい」または「いいえ」に二分した。転帰不良は,変数「中等度またはそれ以上」の逆数と定義される。

逆分散重み付けを用いた比例ランダム効果モデルを用いて一連のメタ解析を行った。異質性はI2を記述した。

結果

1978~2020年の間に発表された14件の研究を組み入れた。

基準時点の参加者は4,163名,最新の追跡時点の参加者は1,991名で,減少率は52.17%であった。1,991名の参加者の平均年齢(48.5%が女性)は52歳であった。

4件の研究(合計1,027名の研究参加者)で,比較可能な「回復」評価指標が含まれており,参加者の24.2%[95%信頼区間(CI):20.3-28.0%]で報告された(図:上段)。「良好またはそれ以上」の転帰は,合計1,991名の研究参加者を含む14の研究全てで評価され,参加者の35.5%(95%CI:26.0-45.0%)で報告された(図:中段)。「中等度またはそれ以上」の転帰は,11件の研究で評価され,1,805名の研究参加者から成り,参加者の59.7%(95%CI:49.3-70.1%)で報告された(図:下段)。これは逆に,40.3%の参加者が転帰不良であったことも意味している。

考察

結論として,統合失調症は転帰にバラつきがある障害であることがわかった。回復を示したのは24.2%であった。一方,不良転帰は40.3%に認められた。この結果は有利な転帰を過大評価している可能性があるものの,一般に考えられているよりも良好な転帰をとる統合失調症の患者がいることを否定はしない。それでもなお,統合失調症の患者は他の精神病性障害の患者よりも一般的に予後が悪く,本研究の結果は,この複雑な精神障害に対する継続的な支援と治療の必要性を強調するものである。

図.「回復」「良好またはそれ以上」「中等度またはそれ以上」の転帰群のフォレストプロット

260号(No.2)2023年5月30日公開

(野村 信行)

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