大うつ病エピソード患者におけるケタミンと電気痙攣療法の効能と安全性:系統的レビューとメタ解析

JAMA PSYCHIATRY, 79, 1162-1172, 2022 Efficacy and Safety of Ketamine vs Electroconvulsive Therapy Among Patients With Major Depressive Episode: A Systematic Review and Meta-Analysis. Rhee, T. G., Shim, S. R., Forester, B. P., et al.

背景

大うつ病エピソード患者に対して,ケタミンに電気痙攣療法(ECT)と同程度の効能があるかどうかはいまだ不明である。本研究の目的は,ケタミンとECTの効能と安全性を比較した臨床試験の系統的レビューとメタ解析を実施することである。

方法

PubMed,MEDLINE,Cochrane Library,Embaseを,データベース開設から2022年4月19日まで,Medical Subject Headings(MeSH)用語とテキストキーワードを用いて,言語制限なく系統的に検索した。①標準化された診断基準によるうつ病の診断,②ECTとケタミンから成る介入群/比較群,③標準化された測定法を用いた効能の転帰としてのうつ病症状の重症度,を含む研究を対象とした。

抑うつ症状の改善については,Hedges gの標準化平均差(SMD)を使用した。安全性に関する評価項目については,全て二値変数であったため,相対リスク(RR)を用い,Mantel-Haenszel法を使用した。全体的なエフェクトサイズを適切に推定するために,モデルの仮定に応じて固定効果モデルまたはランダム効果モデルを用いて,SMDまたはRRとそれに対応する95%信頼区間(CI)を算出した。

効能の評価項目は,うつ病の重症度,希死念慮,認知,記憶の機能などであった。副次転帰として,安全性の評価項目には,重篤な有害事象(例:自殺企図または死亡),頭痛,筋肉痛,めまい,複視/眼振,解離または離人症状,嘔気が含まれた。

結果

340名の患者(ECT 162名,ケタミン178名)を対象とした6報の臨床試験研究が本レビューに含まれた。ケタミンと比較した場合の,抑うつ症状についてのECTのプールされた全体のSMDは-0.69(95%CI:-0.89--0.48,Cochran Q,p=0.15,I2=39%)で,ECTはケタミンと比較してうつ病重症度においてより有効であることが示唆された。希死念慮の推移を調査した研究は1報のみであったが,1週間及び1ヶ月の追跡期間では群間差は認められなかった(p=0.99及びp=0.69)。神経認知機能を評価項目としていた研究は1報で,ケタミン群の患者はECT群の患者よりも成績が良く,そのエフェクトサイズは小~中程度であると結論づけていた(Cohen d=0.40,p=0.04)。

6報の研究のうち4報(66.7%)だけが有害事象を明示的に報告していた。このうち,自殺企図や自殺による死亡を含む重篤な有害事象を報告していた研究は1報のみで,この研究では,重篤な有害事象を報告した患者の数には,群間で統計学的に有意な差はなく(ECT群90名中23名 vs ケタミン群91名中14名,p=0.09),自殺企図(ECT群90名中6名 vs ケタミン群91名中4名)及び自殺死亡(ECT群90名中1名 vs ケタミン群91名中0名)は,群間で差がなかった。ケタミン群はECT群に比べ,頭痛(RR=0.37,95%CI:0.18-0.76)と筋肉痛(RR=0.23,95%CI:0.13-0.38)のリスクが低かった。一方で,一過性の解離症状や離人症状は,ECT群と比較してケタミン群で多かった(RR=5.04,95%CI:3.03-8.36)。ECT群はケタミン群と比較して,かすみ目(RR=26.47,95%CI:3.62-193.67),めまい(RR=2.99,95%CI:2.03-4.40),複視・眼振(RR=10.88,95%:CI:3.52-33.63)のリスクが低かった。

結論

本系統的レビュー及びメタ解析の知見は,急性期のうつ病重症度の改善にはECTがケタミンよりも優れている可能性があることを示唆するものであったが,治療の選択肢は個別化され,患者中心のものであるべきである。

260号(No.2)2023年5月30日公開

(米澤 賢吾)

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