カナダの気分及び不安治療ネットワーク(CANMAT)タスクフォース報告書:うつ病に対するセロトニン作動性幻覚剤治療

CAN J PSYCHIATRY, 68, 5-21, 2023 The Canadian Network for Mood and Anxiety Treatments (CANMAT) Task Force Report: Serotonergic Psychedelic Treatments for Major Depressive Disorder. Rosenblat, J. D., Husain, M. I., Lee, Y., et al.

目的

古典的なセロトニン作動性幻覚剤(以下,幻覚剤)は,セロトニン2A受容体(5HT2A)に高い親和性を持ち,強力な作動薬または部分作動薬として,急性変性意識状態(例:急性の認知・知覚・心理・感情作用)を誘発する。こうした幻覚剤は,うつ病(MDD)を含むいくつかの精神障害に対する潜在的な新規治療薬として再検討されている。カナダの気分及び不安治療ネットワーク(Canadian Network for Mood and Anxiety Treatments:CANMAT)は,MDDに対する幻覚剤の臨床使用に関するエビデンスと合意を提供するためにタスクフォースを招集した。本研究ではそれに関して報告する。

方法

MDD及びがん関連うつ病に対する幻覚剤による治療の最新の臨床試験を特定するために,系統的レビューを実施した。うつ病が組み入れ基準または主要転帰とされておらず,がん関連の不安または経験的な苦痛に対する効果のみを評価している研究は除外した。PubMed,PsychInfo,Cochrane Registry of Clinical Trialsを検索エンジンとして用い,1990年1月~2021年7月に発表された研究を特定した。

幻覚剤の効能のエビデンスレベルは,CANMATの基準に従って評価した。エビデンスレベルは4段階に分けられ,数字が小さい方がエビデンスレベルが高い。

結果

幻覚剤の抗うつ効果を評価した8件の前方視的臨床試験が特定された。その中で,3件の試験はMDDに対するpsilocybin*を評価し[2件の無作為化対照試験(RCT)と1件の非盲検試験],更に3件のRCTはがん関連のうつ病と不安に対するpsilocybinを評価していた。

結果,2件の小規模RCTでは,MDDにおいて,心理療法とpsilocybinの併用療法は,待機リスト対照群に対する優位性(27名)と,実薬対照群(心理療法とエスシタロプラムの併用療法)に対して同等の効能と安全性(59名)が示された。また,3件のRCT(51名,29名,12名)において,がん関連うつ病に対して特異的な効能が示され,これらにおける,psilocybinのエビデンスレベルは3とされた。治療抵抗性の単極性うつ病(12名)におけるpsilocybinのエビデンスレベルは4であった。2件の試験[RCT(29名)と非盲検試験(17名)]において,治療抵抗性の単極性うつ病に対する単回投与ayahuasca*の有効性が評価され,予備的な肯定的効果が示され,エビデンスレベルは3であった。LSD,メスカリン,pure DMT,5-MeO-DMTのうつ病に対する臨床試験は特定されなかった。

サンプルサイズの小ささ,非盲検化が全ての研究における主要な限界であった。幻覚作用及び身体的作用(例:吐気,嘔吐,頭痛)を含む幻覚剤に関連する有害事象は,概ね一過性であった。

結論

2022年現在,法規制の観点や,効能や安全性を裏付ける質の高いエビデンスが不足していることから,CANMATは,幻覚剤はMDDに対する実験的な治療薬としてのみ検討できるという合意に達した。

*日本国内では未発売

260号(No.2)2023年5月30日公開

(吉田 和生)

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