テクノロジー強化版の評価尺度を利用したうつ病ケアの促進因子と障壁:カナダでの医療者と患者を対象としたオンライン調査

J AFFECT DISORD, 320, 1-6, 2023 Barriers and Facilitators to Technology-Enhanced Measurement Based Care for Depression Among Canadian Clinicians and Patients: Results of an Online Survey. Cheung, B. S., Murphy, J. K., Michalak, E. E., et al.

背景

評価尺度を利用したケア(MBC)は,エビデンスをベースとしており,うつ病の重症度を評価し,治療による症状の改善,症状の再燃,薬の有害事象やQOLを経時的に追う方法である。日常的なMBCの利用は,うつ病治療の転帰を改善させることが示されている。しかし英国や米国での先行研究で,医療現場でのMBC使用率は低くとどまっていることが示された。デジタル技術を利用したMBC(eMBC)を活用すれば,患者が自身のデジタル機器で治療効果の評価を入力することが容易になり,それによってMBC実施の障壁に対処できる可能性がある。

本研究はカナダで行われ,患者と医療者の両方の視点から,MBCやeMBCの促進因子と障壁を理解することを目的としている。

方法

本研究では,精神保健関連組織や医療提供者ネットワークの電子メールのリストを利用して対象者を抽出し,108名の医療者と131名の患者を対象とした。医療者の89.8%は精神科医で,他は研修医や心理士,ソーシャルワーカーであった。先行の上海研究(Murphy, 2021)と同じ内容の,MBCやeMBCに関する23項目の質問をオンラインで行った。患者には,やはり上海研究と同じ内容の22項目の質問を行った。

結果

108名中90名(83.3%)の医療者が,臨床的判断においてMBCが重要であると答え,その点数を解釈できる技能を持っていると答えた。90.7%がMBCは有用で信頼性があり,94.4%がMBCは患者の転帰を改善させ,84.2%が患者もMBCが有益と感じるだろうと回答した。しかし,日常的にMBCを使用していると答えたのは43名(39.8%)だけであった。更に,43.5%は診察のたびにMBCを入力することを患者が嫌がるのではないか,57.4%が忙しい診察の中にどうMBCを組み込んだらよいのかわからないと感じていた。そして88.0%に相当する95名は,もしMBCが自動化され電子的に利用可能になれば,もっと利用するだろうと回答した。

131名の患者については,96.2%が診察前に毎回5分間の質問に答えることに前向きであり,89.3%がMBCは治療に有効と感じ,89.3%が自分の症状経過を追うために携帯電話のアプリを使用したい,93.4%が日常的に継続できると答えた。

限界

本研究への登録はオンラインで行われた。そのため,質問に回答する際にオンラインのプログラムを使用することに慣れていない患者及び医療者については,本研究では捉えられていない可能性がある。

結論

上海研究で示された中国での結果と同様に,カナダにおいても医療者と患者の双方の大多数が,治療場面においてMBCやeMBCを利用したいと考えていることが判明した。しかし,その受容性,簡便性,秘匿性の保持など,実施のための障壁が存在する。

メンタルヘルスマネジメントにおいて,医療者の関与なしに,モバイルテクノロジーの活用が拡大しており,患者におけるeMBC活用の促進因子となり得る一方,2019年の研究では,うつ病を対象としたモバイルアプリの多くが,明確なプライバシーポリシーを有していないことが示されるなど,秘匿性の保持に課題がある。第三者の関与への懸念に対処するため,評価尺度の入力結果が自動的に電子カルテに反映されるクローズなシステムを開発した組織もある。

COI

原著者達は,Asia-Pacific Economic Cooperation, BC Leading Edge Foundation, Canadian Institutes of Health Research, Canadian Network for Mood and Anxiety Treatments, DSP, Eli Lilly, Healthy Minds Canada, Janssen, Lundbeck, Lundbeck Institute, Medscape, Michael Smith Foundation for Health Research, MITACS, Myriad Neuroscience, Ontario Brain Institute, 大塚,Pfizer, Sunovion, Sanofi, Unity Health, Vancouver Coastal Health Research Institute, VGH-UBCH Foundationから財政支援や講演等に対する謝礼の支払いを受けている。

260号(No.2)2023年5月30日公開

(真鍋 淳)

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