小児期の心的外傷歴のあるうつ病の成人における治療の有効性:系統的レビューとメタ解析

LANCET PSYCHIATRY, 9, 860-873, 2022 Treatment Efficacy and Effectiveness in Adults with Major Depressive Disorder and Childhood Trauma History: A Systematic Review and Meta-Analysis. Childhood Trauma Meta-Analysis Study Group

目的

18歳未満の子どもの抱える,ネグレクトや心理的・身体的・性的虐待による心的外傷は,成人期うつ病の一般的かつ強力な危険因子である。成人期うつ患者ではおよそ46%が小児期の心的外傷を有しており,慢性化うつ病患者では更にその割合が高い。

うつ病患者において,心的外傷の有無による治療の有効性の違いについてはエビデンスが一貫しておらず,小児期のどのような心的外傷がうつ病治療の成果に関連するかを見出したメタ解析は存在しない。本研究では,小児期の心的外傷を持つ成人うつ病(慢性のうつ病を含む)患者は,小児期の心的外傷のない成人うつ病患者と比較して,治療前のうつ病の重症度が高いかどうか,治療後の転帰が不良であるかどうか,治療の有効性が低いのかどうかについて検討することを目的とした。

方法

本研究では包括的なメタ解析を行った。本メタ解析のプロトコルはPROSPEROに登録されている(CRD42020220139)。文献の抽出には,2013年11月21日~2020年3月16日にPubMed,PsycINFO,Embaseを用いて検索を行い,更に無作為化臨床試験(RCT)の三つの情報源(心理療法についてのデータベース,薬物療法のネットワークメタ解析,臨床試験の大模模な系統的レビュー)の全文スクリーニングを行った。このうち,18歳以上,主診断がうつ病であり,小児期の心的外傷の評価がなされており,現在エビデンスの得られている治療を受けている患者を対象とした研究が組み入れられた。

本研究では,治療前後のうつ病の重症度の変化を主に評価した。

結果

10,505報の論文が同定され,このうち29報(20報のRCTと9報の非盲検試験),合計6,830名(18~85歳の参加者が本研究に組み入れられた。このうち,小児期の心的外傷を有するうつ病患者は半数以上(4,268名,62%)であった。小児期の心的外傷を持つ患者は小児期の心的外傷を持たない患者と比べて,治療前のうつ病の重症度が高かった(p<0.001)が,治療効果,脱落率は同様であることが確認された。

心的外傷の種類,研究デザイン,うつ病の診断,心的外傷の評価方法,研究の質,出版年,治療法や期間によって結果に有意な差は生じなかったが,国による差はあり,北米で行われた研究は、アジア太平洋諸国のものよりも、心的外傷を持つ患者における治療効果が心的外傷のない患者よりも大きく,欧州での研究と同等の結果であった。ただし,この差については検出力に限界があるため,慎重に解釈する必要がある。

考察

慢性のうつ病を含む,小児期の心的外傷を持つ成人うつ病の患者は,先行研究と同様,心的外傷を持たない患者と比較すると,治療前の症状の重症度は高かった。一方,これまでの研究結果と異なり,心的外傷を持たない患者と同様に症状の改善が見られた。これは治療効果の定義の違いや研究の検索方法による影響が考えられる。先行研究では,治療前の重症度について一貫した統制がされておらず,改善の定義を満たすには,より大きな治療効果を必要とする可能性があったが,本研究では,治療前後のうつ病の重症度の変化を検討している。また,本研究では,全文検索を行って多くの研究を組み入れたことで先行研究よりも広い概観が得られており,うつ病治療の効果に対する心的外傷の影響をより正確に示すことができたと考えられる。また,心的外傷の種類による治療前の重症度や治療効果に差がなかったことから,特定の種類の小児期の心的外傷ではなく,複数の小児期の心的外傷が影響している可能性があることが考えられる。

260号(No.2)2023年5月30日公開

(冨山 蒼太)

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