うつ病急性期治療で寛解に至った週数からその後の再燃を予測する:STAR*D再解析

J AFFECT DISORD, 320, 710-715, 2023 Predicting Relapse from the Time to Remission During the Acute Treatment of Depression: A Re-Analysis of the STAR*D Data. Kubo, K., Sakurai, H., Tani, H., et al.

背景

うつ病急性期治療で症状が早期に改善すると,その後寛解に至りやすい。しかし,急性期治療の臨床反応にかかる時間が長期予後に及ぼす影響はほとんど検証されていない。そこで本研究では,STAR*D試験のデータを用いて,急性期治療の寛解までの時間とその後の追跡期間中における再燃との関連を検証した。

方法

STAR*D試験には,DSM-Ⅳで非精神病性のうつ病と診断された4,041名の外来患者が参加し,ステップ1治療として最大14週間citalopram*を服薬した。この治療で,16項目版簡易抑うつ症状尺度(Quick Inventory of Depressive Symptomatology:QIDS)の臨床医評価版(QIDS-C16)による寛解に至った参加者は,原則同じ用量を継続し,最長12ヶ月の追跡期間に入った。ステップ1治療中における抑うつ症状の重症度は,基準時点と2,4,6,9,12,14週にQIDSの自己記入式版(QIDS-SR16)で評価した。追跡期間中における重症度は,12ヶ月まで毎月,QIDS-SR16で評価した。本解析では,ステップ1治療のいずれかの評価時において,①QIDS-C16で5点以下,②QIDS-SR16で5点以下となることを別々の寛解として定義した。また,再燃を追跡期間中のいずれかの評価時においてQIDS-SR16で11点以上となることと定義した。

多変量ロジスティック回帰分析により,臨床因子(性別,年齢,過去の抑うつエピソード数,現在のエピソード期間,基準時点のQIDS-C16点数,ステップ1治療中のQIDS-C16またはQIDS-SR16による寛解までの週数)と追跡期間中の再燃との関連を評価した。また,一元配置分散分析により,2,4,6,9,12,14週でQIDS-C16またはQIDS-SR16による寛解を達成した参加者の再燃率を比較した。ヨンクヒール=タプストラ(Jonckheere-Terpstra)傾向検定を用い,ステップ1治療中にQIDS-C16またはQIDS-SR16による寛解に至るまでに要した週数と,追跡期間中の再燃までの日数との関連を評価した。

結果

ステップ1治療中にQIDS-C16とQIDS-SR16で寛解に至り,追跡期間中に少なくとも1回の評価を受けた参加者は,それぞれ1,148名と1,093名であった。寛解に要した週数は,それぞれ7.5±3.8週と6.4±3.8週であった。その中で,追跡期間中に再燃した参加者はそれぞれ391名(34.1%),362名(33.1%)であった。

多変量ロジスティック回帰分析の結果,QIDS-C16及びQIDS-SR16で寛解に要した週数はそれぞれ,その後の追跡期間中の再燃に関連した[オッズ比(OR)=1.06,95%信頼区間(CI):1.02-1.10,p<0.001及びOR=1.07,95%CI:1.03-1.11,p<0.001]。QIDS-C16とQIDS-SR16で2,4,6,9,12,14週にそれぞれ寛解に至った者の間では,再燃率は有意に異なっていた(F(5, 1142)=4.363,p<0.001,F(5, 1087)=4.995,p<0.001)。再燃率が最も高かったのは,QIDS-C16とQIDS-SR16共に12週に寛解した群であった(42.4%と43.6%)。再燃率が最も低かったのは,QIDS-C16では2週(24.1%),QIDS-SR16では4週(25.7%)で寛解に至った群であった。

QIDS-C16及びQIDS-SR16で寛解した後再燃するまでの平均日数は,それぞれ148.9±98.4日及び160.0±99.8日であった。ヨンクヒール=タプストラ傾向検定では,QIDS-C16(z=-5.60,p<0.001),QIDS-SR16(z=-6.13,p<0.001)とも,寛解までの週数と追跡期間中の再燃までの日数の間に,有意な負の傾向が認められた。

考察

急性期における抗うつ薬治療への反応が早いほど,再燃率や再燃までの期間において転帰がより良好であった。寛解までに時間がかかった患者に対しては,再燃を防ぐため,より綿密な追跡が必要かもしれない。

本研究の限界は,非精神病性うつ病の外来患者のみを組み入れていること,脱落率が高いこと,アドヒアランスが考慮されていないことなどである。

*日本国内では未発売

260号(No.2)2023年5月30日公開

(櫻井 準)

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