他の点では健康なデンマークの成人51,658名における,うつ病の有病率:症候学における性差と将来の抗うつ薬使用に関する予測

PSYCHIATRY RES, 318, 114944, 2022 Prevalence of Major Depressive Disorder in 51,658 Otherwise Healthy Adult Danes: Sex Differences in Symptomatology and Prediction of Future Anti-Depressive Medication. Mikkelsen, C., Larsen, M. A. H., Sørensen, E., et al.

背景

うつ病(MDD)の有病率が上昇する中で,MDDの早期発見が予後の改善に繋がることが示されてきた。同時にMDDが不均一な集団であることも示唆されてきた。MDD診断における個別化アプローチが必要であり,かつ未診断時点での早期症状を同定する必要性が示唆された。これを評価するためには,基準時点においては抑うつと診断されておらず,かつ他の点において健康な集団を対象とした前方視的研究が必要であるが,これに対応できるのが,2009年に開始された,健康な献血者の全国的コホートであるデンマーク献血者研究(Danish Blood Donor Study:DBDS)である。

本研究の目的は,DBDS参加者の,組み入れ時点におけるICD-10のMDD有病率を調査し,症候学的な性別の特異性について明らかにすることである。更に,特定の初期症状が後の抗うつ薬投与に繋がりやすいかどうかを検討する。

方法

データ収集期間は2015年5月19日~2021年12月31日とした。参加者は組み入れの際に,抑うつ症状を含む健康質問票に回答し,かつ抗うつ薬投与などの長期薬物療法を受けていない程度に健康であることとした。

抑うつ症状やその重症度については大うつ病質問票(Major Depression Inventory)などを用いて評価した。デンマークの国立処方記録と照合し,1995年~2021年12月31日における抗うつ薬処方に関する情報を収集した。教育レベル,身長や体重,飲酒や喫煙などの情報は自己申告に拠った。精神的な生活の質(QOL)についても評価した。

抑うつ症状と抗うつ薬処方との関連について,性別に層化された多変量Cox回帰モデルを用いて評価した。

結果

51,658名(女性25,109名,男性26,549名)が解析に組み込まれた。596名(1.15%,その63.8%が女性)に基準時点で抑うつがあり,そのうち158名(うち女性124名)にMDDの既往があった。男女差が認められた症状はエネルギー喪失,集中困難,食欲亢進,生きる価値の喪失であった(表)が,興味の喪失やエネルギー喪失の平均スコアは男女ともに高かった。

全体で,1,874名(3.63%,うち58.7%が女性)が後に抗うつ薬を処方され,その中で628名(33.6%)に抑うつの既往があった。基準時点で抑うつがあった者で,抗うつ薬を処方されたのは97名(うち71名が女性)であった。基準時点で抑うつがあると抗うつ薬処方のハザード比(HR)が上昇した(女性で4.90,男性で4.44)。

症状別に見ると,悲哀(HR=1.86),罪悪感(HR=2.37),生きる価値の喪失(HR=2.55)は,基準時点で抑うつがあった女性において,それぞれ抗うつ薬処方のリスクを有意に上昇させた。各症状の予測能を評価するために行った別の解析では,基準時点で抑うつがある場合に,男性においては集中困難(HR=2.62)が,女性においては生きる価値の喪失(HR=1.62)が,それぞれ抗うつ薬投与のリスク上昇と有意に関連した。

献血に伴う鉄欠乏は,抑うつ症状との関連を示さなかった。

結論

献血者におけるMDDは,デンマークの一般人口に比べて少ないが,女性においては,食欲亢進やエネルギー喪失が男性よりも多いという結果となった。本研究の結果は早期の診断や予後予測が有益であることを示すものであると考えられ,より広範に検討が進められることが望まれる。

表.ICD-10抑うつ患者における平均評点(596名)

260号(No.2)2023年5月30日公開

(滝上 紘之)

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