精神病性うつ病の死亡率:18年間の追跡調査

BR J PSYCHIATRY, 222, 37-43, 2023 Mortality in Psychotic Depression: 18-year Follow-up Study. Paljärvi, T., Tiihonen, J., Lähteenvuo, M., et al.

はじめに

幻覚や妄想などの精神病症状は疾病の負担を増し,精神病性うつ病は治療転帰の不良と相関している。一方,精神病性うつ病の疾患過程は比較的知られておらず,診断の安定性に関するエビデンスは限られている。

精神病性うつ病は非精神病性うつ病と比較すると死亡率は2倍,自殺企図のリスクも2倍,自殺死亡のリスクは20~70%上昇することが認められている。しかし,エビデンスは一定せず,併存するパーソナリティ障害や物質使用障害が死亡率の上昇に寄与している可能性がある。

目的

本研究の目的は,精神病性うつ病の死因別死亡リスクを,併存する精神障害の調整を行った上で重症非精神病性うつ病と比較することである。

方法

フィンランドの全国登録を使用したコホート研究を行った。2000~2018年の間に,最初の診断(以下「初回診断」)が精神病症状を伴わない重症うつ病エピソード[ICD-10(以下同)のF32.2とF33.2,以下「非精神病群」]または精神病症状を伴う重症うつ病エピソード(F32.3とF33.3,以下「精神病群」)で,統合失調症スペクトラム障害(F20~F29)や双極性障害(F30, F31)の既往がなく,初回診断時に18~65歳であった患者を適格とした。死因はICD-10コードによって定め,追跡期間は2018年末または死亡までのいずれか早い時期までとし,最長で初回診断から18年後まで追跡した。

ロジスティック回帰分析を用いて,各群における,患者特性の分布の相違を評価した。

結果

非精神病群の患者は90,877名,精神病群の患者は19,064名であった。精神病群では非精神病群に比し男性の比率が若干高く,初回診断時の平均年齢は両群とも約40歳であった。精神病群では非精神病群に比し既存のパーソナリティ障害のある割合が2倍,自傷の既往のある割合が2倍であった。

性別,年齢,併存障害等の因子について調整した結果,精神病群は非精神病群に比し,統合失調感情障害への診断変更は10倍[ハザード比(HR)=11.79,95%信頼区間(CI):10.00-13.89],統合失調症への診断変更は約6倍(HR=6.25,95%CI:5.59-7.00),双極性障害への診断変更は約40%多かった(HR=1.44,95%CI:1.37-1.51)。

18年間の追跡期間中,精神病群の11%(2,188名),非精神病群の7%(6,490名)が死亡した。精神病群の相対的死亡リスクは初回診断後1年以内で最も高く,以後徐々に低下したが,追跡期間を通して高かった。両群の死亡者とも初回診断後5年以内に約半数が死亡していた。初回診断後5年以内における死亡率は,精神病群は非精神病群に比し,全ての死因では60%高く(HR=1.59, 95%CI:1.48-1.70),死因別では,自殺は2倍以上(HR=2.36,95%CI:2.11-2.64),事故死は約60%高く(HR=1.63,95%CI:1.26-2.10),心血管疾患は約60%高かった(HR=1.62,95%CI:1.33-1.98)(表)。物質使用障害とがんの死亡率については,各群との有意な相関は認められなかった。

考察と結論

本研究の限界として,精神病症状が過小評価されることにより精神病群が非精神病群に分類されていた可能性があること,統合失調症スペクトラム障害と双極性障害の除外期間を初回診断前の14日以内としたことから,診断の遅れによりこれらの障害が混入したおそれがあること,失業や独居などの交絡因子があることが挙げられる。

本研究によって,精神科併存症を調整しても,重症うつ病に精神病症状が存在すると際立って死亡率が高くなることが示された。重症うつ病患者に対しては,自殺や外的要因による死亡を防ぐため,精神病症状に対する適切な治療や観察の強化が必要である。

表.精神病性うつ病と重症非精神病性うつ病における5年間の死因別死亡リスク

260号(No.2)2023年5月30日公開

(久江 洋企)

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