精神病性うつ病と自殺による死亡

J AFFECT DISORD, 321, 28-32, 2023 Psychotic Depression and Deaths due to Suicide. Paljärvi, T., Tiihonen, J., Lähteenvuo, M., et al.

背景

非精神病性うつ病(NPD)と比較して,精神病性うつ病(PD)はより悪い治療予後,より高い精神科合併症の有病率,より高い死亡率と関連している。うつ病は自殺のリスクを著しく高めるが,自殺者におけるうつ病と精神病症状の相互作用に関するエビデンスはまちまちである。これまでの研究では,重度のNPDと比較して,PDでは自殺の超過リスクの上昇は認められないか,または比較的緩やかな上昇であることが判明している。更に,PDで比較的よく見られる他の精神疾患の併発が,PDにおける過剰死亡率のかなりの部分を説明する可能性があることが示唆されている。また,PDはNPDよりも暴力的な方法で自殺する可能性が示唆されている。

方法

フィンランドの全国的な登録簿を用いて,うつ病と診断された個人を特定した。また,併存疾患の特定には,退院時台帳も使用した。死因の特定には,フィンランド統計局が管理する死因登録簿から,1998~2018年に登録されたデータを使用した。全ての診断は,国際疾病分類第10版(ICD-10)を用いて特定した。

2000~2018年の間に重症のNPD,またはPDの初回診断を受け,統合失調症スペクトラム障害や双極性障害の既往診断がなく,初回診断時に18~59歳であった者が対象となった。追跡期間は,初回診断から死亡または2018年末のいずれか早い方まで,最長5年間とした。

転帰指標は,ICD-10コードで定義された自殺及びその他の外因による死亡とした。自殺の方法は,中毒による意図的な自傷,溺死を含む窒息,銃器,車との衝突や高所からの飛び降り,その他の方法に分類した。

結果

既存の物質使用障害,パーソナリティ障害,自傷行為の既往の割合は,PDの方がNPDよりも高かった。初回診断後に統合失調感情障害,双極性障害,統合失調症に移行した者の割合は,PD群でNPD群より高かった。5年間の追跡期間中,PD群では2.6%が自殺で死亡したのに対し,NPD群では1.0%であった。PD群では1.0%が不慮の事故により死亡したのに対し,NPD群では0.6%であった。PD群では,5年間の追跡期間中の死亡の約60%(614/966)が自殺及び不慮の事故を含む外因死であったのに対し,NPD群では約50%(1,407/2,844)であった。

PD群ではNPD群に比べ,自殺のリスクが約2倍,不慮の傷害による死亡のリスクが約30%高かった(表)。PD群では,自殺の61%(273/447)が暴力的方法に分類されたのに対し,NPD群では53%(457/855)であった。

PD群では,自殺の3分の2以上,不慮の傷害による死亡の約半分が,初回診断後の最初の2年間に起こっていた。両群とも,初回診断を受けてから自殺による死亡までの平均期間は約1.5年,不慮の傷害では約2年であった。

結論

本研究の結果から,PDの診断後少なくとも2年間は,自殺リスクの評価と管理を強化する必要性が強調される。このリスク管理には,患者が致死的な自殺方法にアクセスすることに関する安全性の計画も含まれるべきである。抗うつ薬と抗精神病薬の併用による迅速な治療は,PDにおける自殺による死亡率を低下させると思われるが,治療中は意図的及び偶発的な過剰服薬のリスクを考慮する必要がある。

表. 重症の非精神病性うつ病(NPD) と比較した精神病性うつ病(PD) の自殺方法別及びその他の外部死因別5年死亡リスク

260号(No.2)2023年5月30日公開

(グナリディス 愛)

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