双極性障害患者における向精神薬への曝露の程度と死亡について

ACTA PSYCHIATR SCAND, 147, 186-197, 2023 Degree of Exposure to Psychotropic Medications and Mortality in People With Bipolar Disorder. Lin, C.-C., Yeh, L.-L., Pan, Y.-J.

背景

双極性障害患者では,一般人口と比較して総死亡リスクが2倍と高く,心血管疾患や自殺による死亡リスクもそれぞれ2倍,20~30倍となっている。1960年代にリチウムが双極性障害の第一選択薬として登場し,2000年以降は第二世代抗精神病薬(SGAs)の使用も増加している。一方,抗うつ薬の使用は賛否両論あるものの,臨床現場で一般的となっており,鎮静睡眠薬も双極性障害の不眠や不安に対して広く使用されている。

本研究では,国民死亡登録とリンクした台湾の国民健康保険研究データベース(NHIRD)から得られた双極性障害者の全国コホートにおいて,向精神薬への曝露の程度と全死因及び特定原因による死亡との関連を検討することを目的とした。

方法

2010年に双極性障害と診断された15歳以上の患者をNHIRDで同定し,初回診断日を指標日とした。そこから2014年までを観察期間とし,各向精神薬(気分安定薬,抗精神病薬,抗うつ薬,鎮静睡眠薬)の1日投与量を定義済み1日用量(DDD:WHOガイドラインにおける成人の適応症に使用される1日当たりの想定維持薬剤量)に変換し,観察期間中のDDDの合計を算出した。また,向精神薬の1日平均曝露量を推定するために,全期間中のDDD合計を更に観察日数で割った。そして,1日平均曝露量に基づいて,投与なし,低用量曝露(0.5DDD未満),中用量曝露(0.5~1.5DDD),高用量曝露(1.5DDD超)の4群に患者個人を分類した。

生存率分析はCox回帰を用いて行った。全死亡のハザード比(HR)は,向精神薬の種類ごとに,投与なし群を参照群として推定した。また,心血管疾患や自殺を含む特定の死因に対するHRも,向精神薬の種類ごとに算出した。

結果

計49,298名が双極性障害の診断を受けたと同定された。平均年齢は47.46歳で,男性が約41.08%であった。64.28%(31,691名)が気分安定薬を,71.13%(35,066名)が抗精神病薬を,67.65%(33,349名)が抗うつ薬を使用し,95.64%(47,148名)が観察期間中に異なる用量の鎮静薬に曝露されていた。

気分安定薬が処方されている患者では,用量に関係なく総死亡リスクが低下し,高用量群での低下が最も顕著で,30%以上低下した。抗精神病薬を使用している患者では,全死亡リスクが用量に関連して上昇した。抗うつ薬を使用している患者では,使用していない者と比べ,総死亡リスクが低下していた。更に,鎮静薬の低用量及び中用量のDDDは,総死亡リスクの低下と関連していた。

中用量または高用量の気分安定薬の使用は,心血管死亡リスクに有意な影響を及ぼさず,低用量曝露群でリスクの低下が確認された。一方,抗精神病薬を使用している患者では,心血管系死亡率の用量依存的な上昇が見られた。

更に,高用量の気分安定薬を使用している患者は,自殺死亡リスクが有意に低下しており,鎮静薬の高用量曝露は,自殺死亡の増加と関連していた。

結論

双極性障害の患者において,気分安定薬の使用は投与量にかかわらず,総死亡リスクの低下と関連していることが示された。しかし,抗精神病薬の使用は,総死亡率及び心血管系死亡率の用量関連的上昇と関連していると推測された。抗うつ薬と鎮静薬の使用では,総死亡率と心血管系死亡率が低下したが,中用量~高用量の抗うつ薬と高用量の鎮静薬では,自殺リスクが上昇することが指摘された。 

260号(No.2)2023年5月30日公開

(渡邉 慎太郎)

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