現在躁状態の双極性障害患者と,最近躁が寛解した双極性障害患者のドパミントランスポーター密度に関するポジトロン断層撮影研究

JAMA PSYCHIATRY, 79, 1217-1224, 2022 A Positron Emission Tomography Study of Dopamine Transporter Density in Patients With Bipolar Disorder With Current Mania and Those With Recently Remitted Mania. Yatham, L. N., Liddle, P. F., Gonzalez, M., et al.

背景

双極性障害の病態生理はいまだ不明である。間接的な臨床薬理学の知見からは,躁とドパミンの過活動との関連が示唆される。しかし,躁の発症に関するドパミン系伝達経路における正確な神経化学的な異常は未解明である。

本研究の目的は,[11C]d-threo-methylphenidate(MP)ポジトロン断層撮影(PET)を用いて,現在躁状態の患者,最近躁が寛解した患者,性別・年齢を調整した健常者の線条体ドパミントランスポーター(DAT)密度を評価することである。著者らは,健常者と比べて,最近寛解した患者ではなく現在躁状態の患者において,線条体MP結合能が低い,という仮説を立てた。

方法

DSM-Ⅳにより診断された,現在躁エピソード9名,及びリチウムもしくは抗てんかん薬にて躁エピソードの治療を受けて最近躁が寛解した患者17名が研究に参加した。寛解の定義は,ヤング躁病評価尺度(Young Mania Rating Scale:YMRS)及びハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)共に8点以下とした。PET検査の前に,気分安定薬を服薬するか,無投薬のいずれかとした。広告で募集した健常対照者も参加した。

PETのデータを用いて,MP非変異結合能(BPND)のパラメトリック画像を作成した。各被験者のパラメトリックBPND画像はそれぞれのMR画像にコレジスターした。核磁気共鳴画像(MRI)は,Montreal Neurological Institute T1テンプレートを用いて標準化した。

BPNDの違いについて,健常者群と患者群,もしくはそのサブグループ間において,年齢を共変量として調整した上で比較検討した。

結果

計47名の被験者が参加した[平均37.8±14.4歳,女性27名(57.4%)]。26名が双極性障害患者で,21名が健常対照者であった。現在躁状態の9名,最近躁が寛解した17名,健常者21名の間で,年齢及び男女比の違いはなかった。

線条体の2ヶ所のクラスターにおけるMPに対するBPNDの値は,健常者と比較し,双極性障害患者(現在躁状態,最近寛解者とも)において有意に低かった。右線条体クラスターには右被殻及び右側坐核が含まれ,一方で左線条体クラスターには左被殻と左尾状核が含まれた。最近躁が寛解した患者と比べ,現在躁状態の患者では左右双方の線条体において,MP BPNDは有意に低かった(共にp<0.001)。

YMRS評点とBPND値の負の相関が,現在躁状態の患者(p<0.01),最近躁が寛解した患者(p=0.005)双方の右線条体クラスターにおいて認められた。HAM-D及び簡易精神症状評価尺度(Brief Psychiatric Rating Scale:BPRS)とBPND値の関連は認められなかった。

考察

本研究から,双極性障害患者では右被殻,右側坐核,左被殻,左尾状核でMP BPNDが低下していることが明らかになった。MP BPNDの低下は,現在躁状態の患者において,より顕著であった。そして,左ではなく右クラスターにおいて,YMRS評点とMP結合との負の相関が認められた。これらの知見は,躁がDAT利用率の低下と関連していることと,躁状態の患者における前シナプスドパミン経路の異常を示唆する。

260号(No.2)2023年5月30日公開

(上野 文彦)

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