生殖行動と不安関連障害の共通した遺伝的基盤

MOL PSYCHIATRY, 27, 4103-4112, 2022 Shared Genetic Basis Between Reproductive Behaviors and Anxiety-Related Disorders. Ohi, K., Kuramitsu, A., Fujikane, D., et al.

背景

初回性交年齢(AFS)や初産年齢(AFB),これまでの挙児数(NEB)などの生殖関連行動は,身体的な健康のみならず,精神障害のリスクとの関連が報告されている。生殖に関する表現型には最大50%程度の遺伝性があり,精神障害のリスクと遺伝的に重なる部分がある。しかし,生殖行動と不安関連障害や特定の不安症との間の遺伝的関連や因果関係は不明である。

方法

五つの生殖関連の表現型[初潮年齢,AFS,AFB,NEB,閉経年齢]と五つの不安関連障害[パニック症(9,907名),Anxiety NeuroGenetics Study(ANGST)研究の不安症(17,310名),英国バイオバンクの不安症(83,566名),心的外傷後ストレス障害(PTSD)(9,537名),強迫症(OCD)(9,725名)]に関する大規模ゲノムワイド関連研究(GWAS)の結果を用いて,生殖行動と不安関連障害との遺伝的相関の検討を行った。GWAS間の遺伝的相関(rg)とその因果関係を評価するために,連鎖不平衡スコア回帰分析とメンデル無作為化解析をそれぞれ行った。

結果

AFSとAFBは,ANGST研究の不安症(AFS:rg±SE=-0.28±0.08,p=6.00×10-4;AFB:-0.45±0.11,p=3.26×10-5),英国バイオバンクの不安症(AFS:-0.18±0.03,p=9.64×10-9;AFB:-0.25±0.03,p=2.90×10-13),PTSD(AFS:-0.42±0.12,p=4.00×10-4;AFB:-0.44±0.12,p=2.00×10-4)との間に負の相関が認められた。また,OCDとの間には正の相関が認められた(AFS:0.25 ± 0.05,p=2.46×10-6;AFB:0.25±0.05,p=3.92×10-7)。逆に,NEBは,英国バイオバンクの不安症(0.11±0.05,p=0.031)とPTSD(0.29 ±0.13,p=0.024)との間に正の相関,OCDとの間に負の相関を示した(-0.28± 0.08,p=6.00×10-4)。

男女別の検討では,AFSと不安関連障害との遺伝的な相関において男女差は認められなかったが,AFBと不安関連障害との相関は女性の方が強かった。NEBについては,女性の方が英国バイオバンクの不安症及びPTSDとの関連が強く,男性の方がOCDとの相関が強かった。

AFS及びAFBが早いことと不安症の間には双方向の効果があることが明らかになった[オッズ比(OR):AFSが早い→不安症=1.64,p=2.27×10-8;AFBが早い→不安症=1.15,p=2.28×10-3;不安症→AFSが早い=1.02,p=6.62×10-8;不安症→AFBが早い=1.08,p=1.60×10-4)。一方,OCDに対しては,AFSとAFBが遅いことでの一方向の効果が観察された(OR:AFSが遅い→OCD= 2.18,p=2.16×10-6;AFBが遅い→OCD=1.22,p=0.016)。

結論

パニック症,PTSD,OCDは比較的サンプルサイズが小さく,統計学的有意差を検出できていない可能性もあるが,本研究から,生殖関連の表現型と不安関連障害の間に共通する遺伝的因子があることがわかった。性的経験や出産が早い者は不安症のリスクを抱えやすく,逆に不安症を抱える者は性的経験や出産が早いことが示された。また,性的経験や出産が遅い者は遺伝的にOCDのリスクを抱えやすいことが示唆された。この結果は,OCDを不安症から独立させるような診断基準(DSM-5)の改訂を更に支持するものである。不安関連障害患者の予防,診断,治療のために,共通した遺伝的因子を用いた更なる個別化研究が望まれる。

260号(No.2)2023年5月30日公開

(谷 英明)

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