注意欠如・多動症,自閉症,統合失調症に対する親の遺伝的易罹患性と子の神経発達状態に対する妊娠関連因子との関連:ノルウェーの母子・父子コホート研究(MoBa)より

JAMA PSYCHIATRY, 79, 799-810, 2022 Associations Between Pregnancy-Related Predisposing Factors for Offspring Neurodevelopmental Conditions and Parental Genetic Liability to Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder, Autism, and Schizophrenia: The Norwegian Mother, Father and Child Cohort Study (MoBa). Havdahl, A., Wootton, R. E., Leppert, B., et al.

背景

注意欠如・多動症(ADHD)などの神経発達症は早期に発症することから,母親の妊娠中曝露のいくつかが子の神経発達症の素因であると考えられている。しかし,その多くは因果関係があるかどうかは不明であり,母親の遺伝的易罹患性によるバイアスが生じている可能性がある。本研究では,ノルウェーの母子・父子コホート研究(Norwegian Mother, Father and Child Cohort Study:MoBa)において,ADHD・自閉症・統合失調症に対する母親及び父親のポリジェニックスコア(PGS)と,母親の妊娠関連の曝露及び母親の妊娠中に父親に発生していた曝露との関係を検証した。

方法

MoBaは,1999年6月~2008年12月にノルウェー全国から募集した住民ベースの妊娠コホートである。

母親と父親におけるADHD,自閉症,統合失調症のPGS(遺伝的素因の指標)は,利用可能な最大規模のゲノムワイド関連研究より算出した。母親のPGSと自己申告による妊娠関連指標38件(喫煙や飲酒などの生活様式,糖尿病や感染症や自己免疫疾患などの併存症,薬剤使用状況など)との関連を推定し,これらの結果を,母親の妊娠中に評価した父親における妊娠関連指標16件と比較検討した。解析は2021年3月~2022年3月に行った。

結果

母親14,539名[平均(標準偏差:SD)年齢:30.00(4.45)歳]及び父親14,897名[平均(SD)年齢:32.46(5.13)歳]が解析対象となった。

母親のADHDのPGSが高いと,出産時の母親の年齢がより若年であり,妊娠中の喫煙割合が高く,妊娠前の体格指数(Body Mass Index:BMI)が高く,妊娠中の体重増加が顕著であり,葉酸などのサプリメント摂取率が低く,喘息,抑うつ/不安症状の発現割合が高かった。母親の自閉症のPGSは,妊娠中の抑うつ/不安症状に関連していた。また,母親の統合失調症のPGSは,妊娠中のコーヒー摂取,喫煙,妊娠前BMI低値,妊娠中の体重増加,妊娠中の抑うつ/不安症に関連していた。

母親と父親間で比較検討した妊娠関連指標16件のうち,母親のADHDのPGSが高いと妊娠中の喫煙割合が高まったが,これは父親のADHDのPGSが喫煙を予測するオッズよりも高く,また,統合失調症のPGSは母親では妊娠中のコーヒー摂取の増加に関連していたが,父親ではこのような関連が認められなかった。

結論

本研究では,ADHD及び統合失調症に対する遺伝的易罹患性が高い妊婦では,複数の有害な妊娠関連因子のリスクが高いという関連が示された。これまで妊娠関連因子は子どもの神経発達症の素因であると考えられてきたが,この因果関係は上記の関係によって交絡されている可能性がある。今後の研究デザインでは妥当な因果関係を推論するために遺伝的交絡を考慮することがきわめて重要であり,それによって妊婦に対して正確な助言を与えることができるようになる。

260号(No.2)2023年5月30日公開

(尾鷲 登志美)

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