十代のADHD運転手の不注意を減らす訓練の試験

N ENGL J MED, 387, 2056-2066, 2022 Trial of Training to Reduce Driver Inattention in Teens with ADHD. Epstein, J. N., Garner, A. A., Kiefer, A. W., et al.

背景と目的

十代の自動車運転手は成人と比べて4倍衝突事故に巻き込まれやすく,注意欠如・多動症(ADHD)の十代は定型発達の十代と比べて2倍衝突事故に巻き込まれやすい。十代のADHDの運転手は,特に注意が散漫な時に車道への目線を維持することが難しい。ADHDの十代は長い(2秒以上)脇見の割合が定型発達の十代よりも高い。

長い脇見の問題がある十代の運転手向けのコンピュータープログラム(Focused Concentration and Attention Learning:FOCAL)をADHDの十代に合わせて強化し(FOCAL+),従来の運転訓練と効果の比較を行った。

方法

知的障害のない,週3時間以上の運転を行っている16~19歳(152名,参加時の平均年齢:17.4±0.9歳)のADHDの者を対象とし,介入群(FOCAL+)と対照群(従来の訓練)に1:1の比率で無作為に割り付けた。

訓練は両群とも,約90分間の合計5回のセッションで構成されていた。各セッションは,動画などによる卓上での指導と,注意力を分散させる課題を遂行しながら行われる5分間の模擬運転の二つの段階に分かれていた。介入群では,上下2画面のパネルを活用した,運転中に短い視線移動を繰り返してマルチタスクをこなせるようになるための指導と模擬運転が行われた。模擬運転では,長い脇見に対して音による注意喚起を行った。対照群では,スライドや動画,テストを用いた,2016年の米国運転者交通安全教育協会のカリキュラムをもとにした指導と模擬運転が行われた。模擬運転は介入群と同じものを用いたが,音による注意喚起はなかった。

主要転帰の評価は訓練前,訓練後1ヶ月,訓練後6ヶ月に行った。いずれも音による注意喚起のない状態で,注意力を分散させる課題を遂行しながら15分間の模擬運転を2回行い,運転中の長い脇見の回数と,平均の車線位置の変化を評価した。副次的転帰の調査では,訓練後1年間の実走行について録画装置を用いて,内蔵の加速度計が前方または側方に0.6g以上の重力加速度(G)の生じた出来事(Gイベント)を記録した。その際に,前5秒と後1秒の間に長い脇見があったかどうか,その出来事が衝突事故,あるいは衝突の危険(事故を回避するための回避運動)によるものかどうかを調査した。

結果

長い脇見の回数は,介入群では訓練後1ヶ月が16.5回,6ヶ月が15.7回であったのに対し,対照群ではそれぞれ28.0回と27.0回であった。また,平均の車線位置の変化は介入群では1ヶ月後と6ヶ月後ともに0.98フィート〔訳註:約29.9センチ〕であったのに対し,対照群では1ヶ月後と6ヶ月後ともに1.20フィート〔訳註:約36.6センチ〕であった。

副次的転帰の調査では,介入群ではGイベントの18.3%で長い脇見が生じていたが,対照群では23.9%で生じていた。また,衝突事故,もしくは衝突の危険は介入群ではGイベントの3.4%,対照群では5.6%で発生していた。

結論

運転中に注意散漫になりがちなADHDの十代の若者において,FOCAL+の介入によって,従来の運転者教育プログラムよりも,車道から視線が2秒以上離れる脇見と,衝突リスクと関連する運転のふらつきを示す車線位置の変化が少なくなった。また,実際の運転でも,介入群の参加者は対照群よりも長い脇見や衝突事故,衝突の危険の割合が低くなった。

COI

本研究は米国国立保健研究所による資金提供を受けている(臨床試験番号:NCT02848092)。

260号(No.2)2023年5月30日公開

(冨山 蒼太)

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