中年女性における精神障害に対して複数の危険因子が果たす役割:全住民ベースの追跡研究

J PSYCHIATR RES, 156, 414-421, 2022 Role of Multiple Risk Factors in Mental Disorders Diagnosed in Middle-Aged Women: A population-Based Follow-Up Study. Wang, X., Memon, A. A., Palmér, K., et al.

背景

様々な精神障害の性差は生涯を通じて持続し,中年女性は精神疾患を有する割合が最も高い。うつ病や不安症を含む精神障害は予防可能であると考えられており,リスクが高いと思われる個人を特定し,早期介入によって発症を予防することが重要である。精神障害のリスクに関する先行研究は存在するが,中年女性における精神障害の将来の発症リスクを予測するために,様々な要因を組み合わせてリスクスコアを推定した研究はない。

DNAメチル化が生活習慣の因子と関連し,生活習慣の因子が様々な精神障害の発症に繋がる可能性があるというエビデンスに基づき,本稿ではDNAメチル化レベルが精神障害を予測するための生物学的マーカーになると仮定した。

本研究では,全住民ベースの追跡研究から得られた中年女性において,社会人口統計学的因子,生活習慣,DNAメチル化などの潜在的危険因子と精神障害との関連を調査することを目的とした。また,これらの因子を組み合わせて,将来の精神障害発症リスクを予測するためのリスクスコアを推定することを目的とした。

方法

本研究は女性を対象とした前方視的全住民ベースのコホート研究であるWomen's Health in Lund Area(WHILA)研究をもとに実施した。このコホートは1995年にスウェーデンのルンドに住んでいた全ての女性(1935~1945年生まれ,10,766名)が対象となり,6,916名が最終的に研究に組み入れられた。本研究では,このデータベースに含まれる全ての潜在的危険因子についての検討を行った。グローバルDNAメチル化レベルの解析は,入手できた血液検体数,検定検出力などを勘案し,うつ病(MDD)/不安症との関連についてのみ実施した。

潜在的危険因子全てをCox回帰モデルに単変量で組み込み,統計的に有意な変数を完全補正Cox回帰モデルで検討し,独立した危険因子をリスクスコアモデルに組み込んだ。

結果

研究に含まれた女性[基準時点の年齢56.4歳(中央値)]のうち,455名が基準時点,2,026名が追跡期間(中央値17年)で精神障害を有していた。重回帰分析の結果,喫煙[ハザード比(HR)=1.38,p<0.0001],身体活動の低下(HR=1.33,p<0.003),独身(HR=1.16,p<0.008),失業(HR=1.50,p<0.0001)が精神障害のリスク上昇と独立して関連していた。三つ以上の危険因子を持つ参加者が精神障害を有する推定確率は50%である一方,危険因子を一つも持たない参加者の推定確率は27%であった(図a)。ただし,この推定確率の予測能力は低かった。危険因子を二つ以上持つ参加者と一つも持たない参加者がMDD/不安症を有する推定確率はそれぞれ28%と15%(図b),神経症・ストレス関連・身体表現性障害を有する推定確率は12%,7.5%であり(図c),いずれも予測能力は低かった。また,アルコールまたは薬物使用障害を有する推定確率は,三つ以上の危険因子を持つ参加者で15%,一つも持たない参加者で0.4%(図d)であり,予測能力が高かった。

DNAメチル化とMDD/不安症との関連について解析したところ,MDD/不安症の参加者は,そうではない参加者に比べて基準時点のグローバルDNAメチル化レベルが統計学的に有意に高かった(p=0.017)。更に条件付きロジスティック回帰を用いて,グローバルDNAメチル化レベルを曝露としたオッズ比(MDD/不安症に罹患する確率)を推定したところ,オッズ比率(OR)は有意に増加した(OR=1.21,95%信頼区間:1.07-1.36)。グローバルDNAメチル化レベルと危険因子(喫煙,年齢,アルコール,教育,雇用,配偶者の有無,身体活動)との関連も検証したが,有意な関連は見られなかった。

限界

本研究の限界として,測定が自己報告データに基づいているため,情報及び想起バイアスの可能性が高いことが挙げられる。また,潜在的な危険因子は有り無しに二分したものを用いた。更に,本研究結果は女性参加者のみに基づくものであり,男性への一般化可能性は今後の研究において確立される必要がある。

結論

様々な精神障害に対して,異なる危険因子が異なる役割を担っており,中年女性の精神障害に対する早期介入や予防策を考える際に,このことを考慮する必要がある。基準時点のグローバルDNAメチル化レベルは,MDD/不安症の発症とは関連があり,生物学的マーカーとしてのグローバルDNAメチル化レベルの役割について,更なる調査が必要である。

図.精神障害ごとのリスクスコアモデル

260号(No.2)2023年5月30日公開

(内田 貴仁)

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