生涯の早漏患者におけるSSRI投与前後の島皮質機能変化

PSYCHOPHARMACOLOGY, 239, 3953-3962, 2022 Changes of Insular Function in Lifelong Premature Ejaculation Patients Before and After SSRI Administration. Gao, M., Geng, B., Zhang, S., et al.

背景

生涯の早漏は最もよく見られる男性の性機能障害の一つである。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor:SSRI)であるdapoxetine*は早漏に対する有効な内服薬として承認されているが,どのように脳ネットワークに働きかけるかについてのエビデンスは限られている。過去の多くの磁気共鳴機能画像法(functional MRI:fMRI)研究は,早漏患者における島皮質の機能異常を報告してきた。

本研究の目的は,早漏患者と健常者の間で島皮質に関連した脳機能異常を調べることと,SSRIの投与がその脳機能異常に影響を与えるかどうかを調べることである。

方法

本研究には23名の未服薬の早漏患者と30名の健常対照者を組み入れた。全ての被験者は安静時fMRIによる評価を受けた。早漏患者はdapoxetine 30mg服薬1時間後に再度fMRIによる評価を受けた。fMRIのデータの前処理を行った後に,島皮質を関心領域としたdegree centrality(DC),amplitude of low-frequency fluctuation(ALFF),regional homogeneity(ReHo),機能的結合性(functional connectivity:FC)の各指標を算出した。

早漏患者と健常対照者の違いは2標本t検定で,早漏患者におけるdapoxetine投与前後の変化は対応のあるt検定を用いて調べた。

結果

fMRIの解析において,早漏患者では健常対照者と比較して両側島皮質のDCがdapoxetine投与前では有意に低く,投与後にも有意な変化はなかったが,上昇傾向にあった。ReHOとALFFは早漏患者の方が健常対照者と比較して投与前では有意に高く,治療による有意な変化はなかったが,減少傾向にあった。FCの解析において,早漏患者は健常対照者と比較してdapoxetine投与前では島皮質と下前頭回,中側頭回,下側頭回,尾状核,中心前回,視床の間のFCが有意に低かったが,投与後には島皮質と中側頭回,下側頭回,視床の間のFCは低くなり,島皮質と前部帯状回皮質の間のFCは高くなった。Dapoxetine投与前後には,島皮質と下前頭回,中心前回,扁桃体,海馬,海馬傍回,尾状核,視床などとの間のFCの変化が認められた。

考察

本研究はfMRIを用いてdapoxetine投与前後の脳機能変化を調べた初めての研究である。早漏患者における治療前の異常な島皮質の機能は,dapoxetine投与後に正常化の傾向を示した。過去の研究は,自閉スペクトラム症や強迫症など他の疾患に対するSSRIの投与が島皮質の機能を変化させることを報告している。Dapoxetine投与により島皮質と辺縁系の間のFCの上昇が認められた。今回の結果は,dapoxetineは島皮質の機能異常を改善させることを示唆し,島皮質と辺縁系の間のFCが早漏患者に対するdapoxetine治療の生物学的マーカーとなる可能性が推測される。

本研究の限界としては,サンプルサイズが小さいことが挙げられ,今後は大規模な人数での研究が必要である。また,本研究ではdapoxetineの単回投与の影響を調べただけであるため,今後は長期的なSSRI投与の影響も調べる必要がある。

結論

早漏患者には島皮質の機能異常があり,dapoxetine投与はこの島皮質の異常を正常化させる方向に働く。

*日本国内では未発売

260号(No.2)2023年5月30日公開

(髙宮 彰紘)

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