【from Japan】
東日本大震災の心的外傷体験と産後うつ症状の関連:東北メディカル・メガバンク計画三世代コホート調査からの知見

Journal of Affective Disorders, 320, 461-467, 2023 Traumatic Experiences of the Great East Japan Earthquake and Postpartum Depressive Symptoms: The Tohoku Medical Megabank Project Birth and Three-Generation Cohort Study. Keiko Murakami, Mami Ishikuro, Taku Obara, Fumihiko Ueno, Aoi Noda, Tomomi Onuma, Fumiko Matsuzaki, Saya Kikuchi, Natsuko Kobayashi, Hirotaka Hamada, Noriyuki Iwama, Hirohito Metoki, Masahiro Kikuya, Masatoshi Saito, Junichi Sugawara, Hiroaki Tomita, Nobuo Yaegashi, Shinichi Kuriyama

村上 慶子 先生(写真)

東北大学東北メディカル・メガバンク機構予防医学・疫学部門

東北大学東北メディカル・メガバンク機構予防医学・疫学部門 栗山 進一 先生

村上 慶子先生 写真

背景

災害はメンタルヘルスに多大な影響を及ぼすことが知られている。地震に被災した妊婦では抑うつ症状を有する割合が高いという関連が示されてきたが,被災と産後うつ症状との関連についてのエビデンスは限られている。また,地震発生から1年以内の関連を検討した研究が主であり,長期的な影響は不明である。本研究では,東日本大震災の心的外傷体験と数年後の産後うつ症状との関連を検討することを目的とした。

方法

宮城県及び岩手県の一部地域に居住する妊婦とその家族を対象とした東北メディカル・メガバンク計画三世代コホート調査のデータを用いた。2013年7月~2017年3月に調査参加に同意した妊婦22,493名のうち,必要項目に有効回答が得られた11,403名を分析対象とした。

東日本大震災の心的外傷体験は,「地震または津波により自分の命が危険にさらされていることを感じる体験をしたか(命の危険)」,「地震または津波による他の人の死や命の危険があった場面を目撃したか(他者の死・危険の目撃)」,「親しい方の中で震災の影響によって亡くなった方もしくは行方不明になった方はいるか(親しい者の喪失)」を尋ね,体験の合計数を算出した(0~3個)。エジンバラ産後うつ病自己評価票(Edinburgh Postnatal Depression Scale:EPDS)を産後1ヶ月時に測定し,総得点30点中9点以上を産後うつ症状ありとした。

多重ロジスティック回帰分析を用いて心的外傷体験と産後うつ症状との関連を検討し,出産時の年齢,出産歴,妊娠判明時の気持ち,教育歴,世帯収入,妊娠中の社会的孤立,震災時の家屋損壊状況,調査回答年で調整した。

結果

東日本大震災の心的外傷体験の数の割合は,0個が60.5%,1個が26.7%,2個が9.6%,3個が3.2%であった。産後1ヶ月時点で産後うつ症状を有している割合は13.3%であった。

命の危険,他者の死・危険の目撃は産後うつ症状と関連しており,オッズ比(95%信頼区間)はそれぞれ,1.40(1.24-1.59),1.28(1.08-1.53)であった。親しい者の喪失は産後うつ症状と関連しておらず,オッズ比(95%信頼区間)は1.13(0.99-1.30)であった。心的外傷体験の合計数が多いほど産後うつ症状を有している割合が高く,0個と比較した1,2,3個の産後うつ症状ありのオッズ比(95%信頼区間)はそれぞれ,1.22(1.08-1.39),1.45 (1.20-1.74),1.59(1.18-2.15)であった(傾向p値<0.001)。年齢,出産歴,妊娠判明時の気持ち,教育歴,世帯収入,妊娠中の社会的孤立が産後うつ症状と関連しており,震災時の家屋損壊状況,調査回答年と産後うつ症状との関連は見られなかった。

考察

東日本大震災の心的外傷体験を有する女性は,震災から数年後に産後うつ症状を有している割合が高いことが明らかになった。これは,災害が女性のメンタルヘルスに長期的な影響を及ぼす可能性を示唆していると言える。また,心的外傷体験の合計数が多いほど産後うつ症状割合が高かったことから,心的外傷体験とメンタルヘルスの関連は量‐反応関係にあることが考えられる。

産後の女性のメンタルヘルスは,本人のみならず児・家族にも影響する重要な課題である。本研究結果は,災害後における女性のメンタルヘルスケアの重要性を示したと言える。

260号(No.2)2023年5月30日公開

(村上 慶子,栗山 進一)

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