【テーマ:COVID-19①】
長期COVIDの心理学的影響:短期COVID群と長期COVID群におけるSARS-CoV-2感染前後の抑うつ・不安症状の経過の比較

BR J PSYCHIATRY, 222, 74-81, 2023 Psychological Consequences of Long COVID: Comparing Trajectories of Depressive and Anxiety Symptoms Before and After Contracting SARS-CoV-2 Between Matched Long- and Short-COVID Groups. Fancourt, D., Steptoe, A., Bu, F.

はじめに

長期COVIDはCOVID-19に感染した患者の10%程度に見られ,そのうち19%が不安症状,8%が抑うつ症状を呈すると報告されている。しかしながら,長期COVIDの患者においてこれらの心理症状がいつ出現するのか,長期COVIDの患者と短期COVIDの患者でCOVID感染の急性期における心理症状の重症度が異なるのか,長期COVID患者の心理症状の長期経過はどのようなものなのか,ということは明らかになっていない。本研究の目的は,長期COVID患者と短期COVID患者における心理症状の経過を比較することにより,上記の点を明らかにすることである。

方法

2020年3月~2021年11月の期間における,COVID-19パンデミックによる心理的影響を調査したコホートである,University College London(UCL) COVID-19 Social Studyのデータを用いた。22,528名の全データのうち,3,115名のCOVID-19感染者のデータを用いた。

COVID-19及び長期COVIDの診断は自己申告制で,検査陽性者だけでなく臨床診断の患者や自己診断の患者も含まれていた。抑うつ症状は患者健康質問票9項目版(Patient Health Questionnaire:PHQ-9),不安症状は全般不安症質問票7項目版(Generalized Anxiety Disorder Assessment:GAD-7)で評価した。COVID-19感染を基準日とし,感染前,感染後の心理症状の評価を行った。また,ロックダウンなどの行動制限が時期によって異なるため,感染した時期を変数として考慮した。

長期COVID患者と短期COVID患者を,傾向スコアマッチングを用い,1:1で最近傍マッチングを行った。成長曲線モデルを用い,両群の心理症状の経過を比較した。

結果

3,115名の患者のうち,481名の長期COVID患者と481名の短期COVID患者がマッチされた。長期COVID患者の78.2%が女性で,23.3%が医師による診断,76.7%が自己診断であった。

COVID-19感染以前の抑うつ症状には両群で差が認められなかったが,感染時には長期COVID群の方が短期COVID群よりもPHQ-9の評点が1.3ポイント(16%の差)高かった(図a)。長期経過においては両群の変化率には差がなく,結果的に長期COVID群の方が抑うつ症状のレベルが高いままであった(図a)。COVID-19感染以前の不安症状には両群で差が認められず,感染時の不安にも両群で有意な差は認められなかった(図b)。短期COVID群では経時的に不安症状が改善したが,長期COVID群では改善傾向が認められなかった(図b)。

結論

本研究では,長期COVIDに伴う心理症状はCOVID-19感染直後に出現し,抑うつ症状は経時的な改善が見られたものの病前レベルには戻らず,不安症状は経時的な改善が乏しかった。長期COVID患者に対しては,メンタルヘルスのモニタリングと,身体症状に対する診断・治療と組み合わせて適切な支援を行うことが必要である。

図.成長曲線モデルから予測された,抑うつ症状(a)と不安症状(b)の経時的変化

261号(No.3)2023年7月31日公開

(石田 琢人)

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