【テーマ:COVID-19②】
COVID-19入院後3ヶ月及び6ヶ月時点における心的外傷後ストレス症状に関連した因子:縦断的多施設共同研究

J CLIN PSYCHIATRY, 84, 21m14277, 2023 Factors Associated With Posttraumatic Stress Symptoms 3 and 6 Months After Hospitalization for COVID-19: A Longitudinal Multicenter Study. Pitron, V., Cantenys, W., Herbelin, A., et al.

背景

COVID-19感染により入院した患者は,退院後も心身両面で多くの症状を抱えた。特に心的外傷後ストレス症状(PTSS)の有病率が高いものの,どのような要因がCOVID-19退院後のPTSSに関与するのかは不明確である。

女性や若年であることが要因として報告されており,またCOVID-19において攻撃性やせん妄のリスクが高まることも,PTSSに関与するかもしれない。このことは入院中の解離体験に繋がりかねず,これまでに周トラウマ期解離体験が後のPTSS発症と相関するという報告もなされている。一方で,周トラウマ期解離体験に対する早期の認知行動療法により,PTSSを予防できる可能性も示唆されている。更に,COVID-19が短期間に激増したことから,地域の医療機関が早々に満床となり,多くの患者が居住地から遠く離れた医療機関に収容されたことも,孤立を契機としたPTSS発症リスク上昇に関与したかもしれない。

本研究においては,COVID-19退院後3ヶ月及び6ヶ月時点における,患者のPTSSに関連しそうな因子について縦断的に評価し,パンデミックに特異的に関連した因子,とりわけ入院中の周トラウマ期解離体験や自宅からの距離に焦点を当てた。

方法

2020年3月1日~7月31日の間に,パリのピティエ=サルペトリエール病院とテノン病院に入院したCOVID-19患者を対象とし,退院後のデータを同年12月31日まで収集したが,未回答や死亡を含め,十分な回答が得られなかった場合は除外した。退院後3ヶ月及び6ヶ月時点における,自宅からの距離を含む社会人口統計学的状況,集中治療室(ICU)入室歴,精神障害の既往,向精神薬投与,病院不安うつ尺度(Hospital Anxiety and Depression Scale:HAD),周トラウマ期解離尺度(Peritraumatic Dissociative Experience Questionnaire:PDEQ),心的外傷後ストレス障害チェックリスト尺度(Posttraumatic Stress Disorder Checklist Scale:PCLS)に関するデータを収集した。PDEQ,HAD,PCLSなどの各項目については,参加者がオンラインで回答した。

退院後3ヶ月及び6ヶ月時点におけるPTSS関連因子については,Pearsonの二変量解析や多変量段階的線形回帰分析を用いて検証した。

結果

退院3ヶ月後の調査に参加したのは119名であり,うち94名が6ヶ月後の調査を完遂した。そのおよそ1/3には感染前に精神障害の既往があり,また全体の約半分にはICU入室歴があった。

自宅からの距離は,10km以上が16%であった。PCLSについては,3ヶ月時点では31.9%が,6ヶ月時点では30.9%が,それぞれ閾値以上の結果であった。不安や抑うつについても,3ヶ月目と6ヶ月目のいずれにおいても重度である参加者が多かった。

3ヶ月の時点では抑うつ,不安,周トラウマ期解離体験,精神科既往歴が,PTSSに関する独立した因子として分離された。6ヶ月時点におけるPTSSには,家から病院までの距離(p=0.033),抑うつや不安(p<0.001),周トラウマ期解離体験(p<0.001),3ヶ月時点でのPTSSの高さ(p<0.001)が関連していた。

結論

COVID-19入院患者における,後のPTSS発症予防や早期治療にあたっては,上記の要因を臨床医が考慮することが望ましい。

261号(No.3)2023年7月31日公開

(滝上 紘之)

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