統合失調症の女性におけるエストラジオールとラロキシフェンの補助療法:無作為化二重盲検プラセボ対照試験のメタ解析

ACTA PSYCHIATR SCAND, 147, 360-372, 2023 Estradiol and Raloxifene as Adjunctive Treatment for Women With Schizophrenia: A Meta-Analysis of Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Trials. Li, Z., Wang, Y., Wang, Z., et al.

背景

近年,統合失調症では様々な性差が認められることから,エストロゲンが統合失調症の保護因子である可能性が示唆されている。

選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)は,組織ごとに選択性の異なる非ホルモン性エストロゲン受容体のリガンドである。第二世代のSERMであるラロキシフェンは,閉経後女性における骨粗鬆症の予防と治療,及び更年期障害の改善のため,1997年に米国食品医薬品局から承認された。

多くの臨床試験が統合失調症の補助療法としてエストロゲンと選択的エストロゲン受容体阻害薬を使用しているが,これまでエストロゲンとSERMの両方を網羅した系統的レビューはなかった。そのため著者らは,利用可能な全ての無作為化対照試験を対象としたメタ解析を実施した。

方法

2名の研究者が,開設から2022年3月まで,PubMed,Embase,PsycINFO,Cochrane Libraryのデータベースを検索した。組み入れ基準は,①エストロゲンまたはSERMで増強された抗精神病薬の試験で,②DSM-IVまたはDSM-5に従って統合失調症スペクトラム障害の診断を受けた女性患者を対象とし,③査読付き雑誌に掲載され,④統合失調症患者の評価に陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)を用いており,⑤十分な情報(平均値と標準偏差)が取得可能であること,とした。

主要評価項目は,PANSS(総得点)及びPANSSの三つの下位尺度(陽性症状,陰性症状,総合精神病理)で測定した精神病症状の重症度とした。

平均差(MD)及びその95%信頼区間(CI)は,ランダム効果モデルを用いて算出した。

結果

14報の研究が同定された。13報(1,143名)が定量的メタ解析に適格であると判断され,うちエストラジオール vsプラセボの試験が6報(724名),ラロキシフェン vs プラセボの試験が7報(419名)であった。

エストラジオール併用群はプラセボよりも,PANSS総評点(MD=-7.29,95%CI:-10.67--3.91;I2=59.1%;p<0.001;k=9;858名),陽性症状尺度(MD=-1.88,95%CI:-3.04--0.72;I2=45.8%;p=0.001;k=7;624名),陰性症状尺度(MD=-0.97,95%CI:-1.9--0.04,I2=35%;p<0.05;k=7;624名),総合精神病理尺度(MD=-4.27,95%CI:-7.14--1.41;I2=76.3%;p<0.005;k=7;624名)に関して優れていた。ラロキシフェン併用群は,PANSS総評点(MD=-6.83,95%CI:-11.69--1.97;I2=67.8%;p=0.006;k=8;432名)及び総合精神病理尺度(MD=-3.82,95%CI:-6.36--1.28;I2=65.3%;p<0.005;k=8;432名)においてプラセボを上回った。

また,エストラジオールとラロキシフェンの効力は,介入期間によって異なった。エストラジオール群のPANSS総評点は,1週目及び2週目においてプラセボ群と有意な差はなかった(p>0.05)。しかし,介入期間を4週間とした場合,エストラジオール群は対照群よりもPANSS総得点の改善が大きかった(MD=-5.68,95%CI:-8.41--2.94;I2=0.0%;p<0.001;k=7;626名)。また,介入期間を8週間とした場合も,対照群よりもPANSS総評点の改善が大きかった(MD=-7.02;95%CI:-12.19--1.85;I2=75.9%;p<0.01;k=5;584名)。ラロキシフェン群は同じ介入期間の研究が少なく,フォレストプロットでは結果を比較できなかったが,2報の研究を分析すると時間と群の交互作用に差が認められた(p<0.05)。そのうち1報では両群の陽性症状尺度に対して有意な効果(p<0.01)があり,期間が長いほど得点の減少が大きかった。

結論

今回のメタ解析により,エストラジオールとラロキシフェンの補助療法は,統合失調症の女性に対する有望な治療法であることと,その効力が示唆された。エストラジオール補助療法は,統合失調症の女性において,全ての症状に対して有効であり,4~8週間で効果が認められた。ラロキシフェン併用療法は,総合精神病理尺度において有効であり,同様の時間的効果がある可能性がある。今後,それぞれの長所と短所を比較検討することが必要である。特に,SERMの長期使用の効力と安全性,及び認知機能への影響については,調査する価値がある。

261号(No.3)2023年7月31日公開

(佐久間 睦貴)

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