統合失調症患者における抗精神病薬への反応に認められる性差:プラセボ対照研究の個別患者データのメタ解析

PSYCHIATRY RES, 320, 114997, 2023 Gender Differences in the Response to Antipsychotic Medication in Patients With Schizophrenia: An Individual Patient Data Meta-Analysis of Placebo-Controlled Studies. Storosum, B. W. C., Mattila, T., Wohlfarth, T. D., et al.

背景

統合失調症では,年齢区分ごとの発症率に性差が見られるものの,様々な有病率指標に性差はない。しかし,統合失調症研究に登録された女性の割合の中央値は35%であり,性特有の類似性や効果の違いについて信頼できる推論を行うための検出力がない。このことは,効力や安全性に性差がある場合に問題となる可能性がある。抗精神病薬の有効性の差は発症年齢,エストロゲンによる保護的役割,陰性症状の性差などに由来する可能性が示唆されている。

定型抗精神病薬への反応における性別の役割に関する以前の研究では,相反する結果が得られており,また適切な方法論的質を有する研究はわずかであった。しかし,閉経前の女性は慢性期にもかかわらず,閉経後の女性よりも良好な反応を示したことから,エストロゲンが薬物治療に対する反応に好影響を与える可能性が示唆されている。過去に行われたメタ解析では,男性に比べて女性では治療効果が29%大きいことが示された。ただし,この研究では,閉経前と閉経後の女性の区別,基準時点での全体的な症状重症度の差及び陰性症状の差は制御されていなかった。

そこで本研究は,統合失調症における性別と抗精神病薬治療のエフェクトサイズとの関連を調べ,この関連が閉経状態,基準時点の症状重症度や陰性症状と関連しているかどうかについて検証することを目的とする。具体的には,①抗精神病薬の効果は男性よりも女性で大きい,②統合失調症の閉経前女性では閉経後女性よりも効果が高い,③これらの効果は基準時点の症状重症度や陰性症状に依存する,という仮説に基づいている。

方法

DSM-Ⅲ-RまたはDSM-Ⅳの統合失調症患者における精神病エピソードの治療を目的とした,抗精神病薬の二重盲検無作為化プラセボ対照短期有効性登録試験を対象とした。基準時点の重症度,及び6週間投与後の主要な有効性パラメータとして,簡易精神症状評価尺度(Brief Psychiatric Rating Scale:BPRS)を使用した。転帰の変数は,基準時点から6週目までのBPRS総評点の変化と,BPRS総評点の30%以上の改善と定義される奏効率とした。閉経状態については,直接的な情報は得られなかったため,先行研究に従い,47歳以上の女性を閉経後の段階にあると見なした。

結果

本メタ解析には合計29報の研究が組み入れ基準に適格となり,このうち22報が解析対象となった。計5,231名の患者が組み入れられ,3,726名(71.2%)が実薬投与,1,505名(28.8%)がプラセボ投与で,3,790名(72.5%)が男性,1,441名(27.5%)が女性であった。女性は男性より4歳ほど年齢が高かった。基準時点における(陰性)症状の重症度について,対象研究の男女間に関連する基準時点の差はなかった。

全体として,男性よりも女性の方が高い反応率(34.9% vs 29.5%)とBPRS評点の大きな平均改善(11.0 vs 8.9)を示した。また年齢(47歳未満と47歳以上),基準時点における重症度,連続した年齢(年)で補正した場合においても,抗精神病薬は男性よりも女性で統計学的に有意に大きな効果を持つことを示した(図a)。また,閉経の補正を除去したモデルでは,平均BPRS変化量の交互作用(β=1,515,95%信頼区間:-0.303-3.332)で表されるように,性別による緩和効果は低下していた(図b)。

結論

本研究では,統合失調症において,性別と閉経状態が抗精神病薬に対する反応を減弱させるかどうか,また,この関連が基準時点における重症度や陰性症状によって修正されるかどうかを調べた。その結果,統合失調症の男性よりも女性において,抗精神病薬による治療がより大きな症状軽減と関連することが示され,この効果は閉経とは無関係であった。

図.回帰のフォレストプロット

261号(No.3)2023年7月31日公開

(和田 真孝)

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