統合失調症及び統合失調感情障害の治療における抗精神病薬処方の臨床的決定因子,パターン及び転帰:自然経過コホート研究

J PSYCHIATR RES, 158, 273-280, 2023 Clinical Determinants, Patterns and Outcomes of Antipsychotic Medication Prescribing in the Treatment of Schizophrenia and Schizoaffective Disorder: A Naturalistic Cohort Study. Groenendaal, E., Lynch, S., Dornbush, R., et al.

背景

抗精神病薬の持効性注射剤(LAI)は,経口抗精神病薬の服薬頻度を減らすことにより薬物療法を簡略化し,そして望むらくは薬物治療に対するアドヒアランスを向上させるために開発された。抗精神病薬へのアドヒアランスは統合失調症患者にとって困難な課題である。

多くの観察研究で経口とLAIの比較が行われ,様々な臨床転帰においてLAIの有効性が強調されている。経口からLAIへの切り替えは経済的でもある。更に,LAIを試したことのある患者の多くが,経口よりもLAIの方を好む。しかしながら,全ての患者に対してLAIが試みられるわけではない。

第一世代薬(FGA)と第二世代薬(SGA)を比較した研究の結果はより雑多である。先行研究は主に抗精神病薬の剤型や分類による結果との関連に注目しているが,一般的に抗精神病薬選択の決定因子については見ていない。また,重症度の推定を考慮した研究も限定的である。これらのギャップを念頭に置いた上で,本研究の全体的な目的は,2019~2020年に大学病院の精神科に入院した統合失調症または統合失調感情障害患者の自然主義的コホートにおいて抗精神病薬処方の臨床的決定因子を検討し,診断をマッチさせたLAI群と経口群の間,ならびに各群内のFGAとSGAの間で臨床転帰を比較することとした。

方法

電子カルテに入力された請求または主病名が統合失調症または統合失調感情障害であり,2019年1月1日~12月31日の間にLAIを投与された全ての成人精神科入院患者を対象とした。また,診断をマッチさせた,同期間に経口抗精神病薬を継続的に投与された同数の患者を対照群として選定した。電子カルテから対象患者の社会人口統計学的及び臨床的特徴を収集した。

群間比較(LAI vs 経口,FGA vs SGA等)のためにカイ二乗検定や独立及び1標本のt検定を行った。また,LAI及びFGA LAIの処方の独立した予測因子を特定するために,社会人口統計学的因子(年齢,性別,民族,雇用,居住地,交際状況)及び臨床因子[入院期間(LOA),併発した物質使用障害(SUD)]を予測変数としてロジスティック回帰を実施した。

結果

2019年にLAIが投与された患者は123名であり,診断をマッチさせた,同期間に経口薬を服薬していた対照群123名との比較を行った。

LAIと経口を比較した場合,LAIを受けた患者は,LOAが長く,退院がより複雑な傾向にあった(共にp<0.001)。LAIの独立した予測因子は,若年(p=0.01),独身(p=0.04),LOAの長さ(p<0.001)であった。

LAI群の中で,FGAの投与を受けていたのは半数をわずかに下回った。FGAのLAIを受けた患者は,SGAのLAIと比較して,定住先がない傾向が見られた(p=0.03)。FGA LAIに対する唯一の予測因子は年齢が高いことであった(p=0.03)。

経口群の約10%にFGAが投与されていた。FGA経口薬を服薬していた患者には,SGA経口薬に比べ,高齢者(p=0.04)及び女性(p=0.045)が多かった。また,SGAと比べ,FGAが投与された患者はより長期のLOA(p=0.04)や複雑な退院(p=0.02)という特徴を持っていた。

考察

LAIは,統合失調症または統合失調感情障害で,治療に対する社会的・臨床的障壁が大きい患者に対して,強く考慮されるべきものである。LAIは,統合失調症スペクトラム障害の診断を受けた患者間での相対的な重症度の違いを均等にすることのできる効果的な治療法の一つであり,患者と医療従事者の間における共有意思決定プロセスを通じて議論されるべきである。

FGAとSGAの選択についても,過去の病歴,抗精神病薬の治療歴,潜在的な副作用の特性を考慮した共有意思決定に拠るべきである。好ましい治療法についてのコンセンサスを得るためには,FGAとSGAを比較した,より多くの研究が必要である。

261号(No.3)2023年7月31日公開

(上野 文彦)

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