初回エピソードの統合失調症患者における臨床的リカバリー:系統的レビューとメタ解析の更新

SCHIZOPHR BULL, 49, 297-308, 2023 Clinical Recovery Among Individuals With a First-Episode Schizophrenia an Updated Systematic Review and Meta-Analysis. Hansen, H. G., Speyer, H., Starzer, M., et al.

はじめに

統合失調症と診断された人の臨床的リカバリーの割合は13.5~57%と様々な報告があり,調査が行われた条件(疾患の病期,調査が行われた国の経済水準など)も異なる。臨床的リカバリーの定義については,統合失調症寛解ワーキンググループ(RSWG)が提示した寛解基準に加え,機能的・社会的側面にも基づくべきであると専門家は述べているが,まだ合意が得られていない。

本研究の目的は,統合失調症スペクトラムの初回エピソード精神病の人におけるリカバリー率について再検討することである。

方法

本レビューの作成には,PRISMA2020を使用した。プロトコルはPROSPERO(ID:CRD42021230667)に事前に提出され,逸脱はなかった。検索戦略を用いて2022年1月13日までPubMed,PsychInfo,EMBASEを検索した。統合失調症スペクトラムの精神病の初回エピソードと診断された人の臨床的リカバリーを報告する観察研究及び介入的縦断研究を対象とした。

主要転帰は臨床的リカバリー率とした。臨床的リカバリーは,臨床的側面(例:症状評価尺度,精神病症状なし,再燃なし,精神科入院なし)と社会・機能的側面(例:社会・機能評価尺度,社会・職業・教育領域)の両方で定義し,臨床的または社会・機能的側面のいずれかにおいて少なくとも12ヶ月間続いていることとした。更に,治療環境(入院患者vs入院・外来患者),国(高所得国vs高中低所得国),介入[早期介入サービス(EIS) vs 他の介入],リカバリー定義におけるRSWG基準の使用,リカバリーの定義期間(1年 vs 2年 vs 3年以上)などのデータを抽出し,サブグループ解析に用いた。

Comprehensive Meta-analysis version 3統計ソフトを使用し,ランダム効果メタ解析を実施した。臨床的リカバリー率の全体的な割合のプール推定値を95%信頼区間(CI)と共に実施した。

結果

最終的に25報が研究の組み入れ基準を満たした。15ヶ国から成る3,877名のサンプルが得られた。統合失調症スペクトラム障害と診断された人のプールされたリカバリー率は20.8%(95%CI:17.3-24.8,I2=88.9%)であった。平均年齢は26.4歳(範囲21.0~36.0歳),平均追跡期間は9.5年(範囲2~27年)であった。RSWG基準を使用した研究とRSWG基準を用いない研究間で,リカバリー率[23.0%(95%CI:16.1-31.7;研究数8) vs 19.9%(95%CI:16.1-24.3;研究数18)]に有意差はなかった(p=0.48)。リカバリーの定義の期間が3年以上(24.1%,95%CI:18.4-31.1;研究数5) vs 2年(16.0%,95%CI:11.3-22.3;研究数11) vs 1年(24.8%,95%CI:18.9-31.7;研究数10)間で有意差がなかった(p=0.09)。

入院患者(21.3%,95% CI:16.2-27.6;研究数13)と混合(入院と外来)患者(22.1%,95%CI:16.1-29.5;研究数9)の間で違いは見られなかった(p=0.86)。

高所得国 vs 高中低所得国の間でリカバリー率[21.1%(95%CI:17.3-25.4;研究数24) vs 18.2%(95%CI:14.4-22.8;研究数2)]に有意差は見られなかった(p=0.33)。EISを用いた研究(19.5%,95%CI:15.0-24.8;研究数5)は,他の介入(21.0%,95%CI:16.9-25.8;研究数21)に対してリカバリー率に有意差がなかった(p=0.66)。

結論

初回エピソードの統合失調症患者における臨床的リカバリーは約21%であり,様々なモデレーターによるリカバリー率への影響は最小限であることがわかった。この発見は,以前の系統的なレビューと一致していた。EISと他の介入を比較するとリカバリー率に差がなかったことから,リカバリー率を向上させるための新たな取り組みが必要であることが示唆された。

261号(No.3)2023年7月31日公開

(野村 信行)

このウィンドウを閉じる際には、ブラウザの「閉じる」ボタンを押してください。