一般人口における青少年の幻聴と自傷行為:Tokyo Teen Cohortにおける被験者内効果のモデリング

SCHIZOPHR BULL, 49, 329-338, 2023 Auditory Hallucinations and Self-Injurious Behavior in General Population Adolescents: Modeling Within-Person Effects in the Tokyo Teen Cohort. Stanyon, D., DeVylder, J., Yamasaki, S., et al.

背景と目的

青少年における精神病体験(PEs)は,望ましくない精神衛生上の転帰をもたらすことが報告されている。また,PEsの中でも,幻聴(AHs)は自傷行為(SIB)のリスクを上昇させることが知られている。しかし,継時的な被験者内効果とその方向性と特異性についてはよくわかっていない。そこで,本研究ではランダム切片交差遅延パネルモデル(RI-CLPM)分析によって,AHsとSIBがどのように相互作用しているのかを調査した。

参加者

Tokyo Teen Cohort(TTC)の第3波(14歳)と第4波(16歳)からデータを抽出した。TTCは,東京都の世田谷区・三鷹市・調布市の3区市に居住する青少年を対象とした継続中の前方視的コホート研究である。TTCのデータは,2012年より10歳(T1),12歳(T2),14歳(T3),16歳(T4)の各時点を追跡して収集されたものである。

幻聴・自傷行為の測定

AHsは,Diagnostic Interval Schedule for Children(DISC-C)による自己報告を評価した。SIBは,12ヶ月有病率を,「過去1年間において意図的に自分を傷つけたことがありますか?」という自己報告型の質問項目によって評価した。回答の選択肢は,T2においては,「はい」または「いいえ」のみとし,T3とT4においては,「1回もない」「1回だけある」「2~5回ある」「6~10回ある」「11回以上」とした。

統計解析

RI-CLPM分析を実施した。T2~T4のデータを用い,T1は症例減少バイアス(attrition bias)の確認のためにのみ利用した。

被験者内のモデリングでは,うつ病を時間交絡因子とし,未補正の二変量モデルと,補正した三変量モデルの両モデルの結果を示した。

結果

参加者は2,825名であった。RI-CLPM分析の結果,被験者内で,T2にAHsを経験した被験者はT3にSIBを報告する可能性が高かった(二変量モデル:β=0.118,p<0.001;三変量モデル:β=0.124,p<0.001)が,T2のSIBはT3でのAHsと有意な関連はなかった(二変量モデル:β=0.047,p=0.112;三変量モデル:β=0.038,p=0.203)。T3でSIBを報告した被験者は,T4でAHsを報告する可能性が高くなった(二変量モデル:β=0.243,p<0.001;三変量モデル:β=0.241,p<0.001)。T3からT4の間にSIBが起こる可能性に対するAHsの効果(二変量モデル:β=0.086,p=0.012;三変量モデル:β=0.079,p=0.021)は,T2からT3の間に確認された効果よりも減少していた。

限界

本研究の限界としては,うつ病を交絡因子として制御したが,その他の経時的に変化する因子は制御していないこと,被験者の年齢が12~16歳に限られていること,評価が自己報告に基づいていること,が挙げられる。

結論

被験者内分析の結果,SIBとAHsの双方向的な関係が時間の経過に伴って変化することが示された。この変化は,思春期における発達に伴って,PEsの質が変化することに関連すると考えられる。

261号(No.3)2023年7月31日公開

(舘又 祐治)

このウィンドウを閉じる際には、ブラウザの「閉じる」ボタンを押してください。