統合失調症患者由来の人工多能性幹細胞由来アストロサイトは,血管形成に影響を及ぼす炎症性表現型を示す

MOL PSYCHIATRY, 28, 871-882, 2023 Induced Pluripotent Stem Cell-Derived Astrocytes from Patients With Schizophrenia Exhibit an Inflammatory Phenotype that Affects Vascularization. Trindade, P., Nascimento, J. M., Casas, B. S., et al.

背景

統合失調症(SCZ)は脳内の免疫反応系の障害であるという考えを支持する研究報告が増えているが,SCZにおけるアストログリア免疫反応については,まだ十分に解明されていない。本研究の目的は,SCZ患者由来のヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)由来アストロサイトのプロテオーム,炎症反応,及び血管形成に対するセクレトームの影響について調べることである。

方法

ヒトアストロサイトは,健常者(CTR)4名と統合失調症スペクトラム障害患者3名のiPS細胞から得たhiPSC由来神経幹細胞から分化させた。SCZ患者由来アストロサイト調整培地(AsczCM)と対照被験者由来アストロサイト調整培地(AconCM)を鶏絨毛膜(CAM)アッセイで比較し,SCZ患者由来培養hiPSC由来アストロサイトから分泌されるサイトカインの血管新生への影響を検討した。更に,AsczCMで得られたCAMの結果を,外因性サイトカイン添加で得られた結果と比較し,SCZにおいてサイトカインが血管新生を阻害する可能性があるという仮説を検証した。

結果

ヒト白血球抗原(HLA)-A,Toll様受容体(TLR)8,シンタキシン(STX)1Bなどの免疫応答タンパク質は,SCZのアストロサイトで発現量が増加していた。

腫瘍壊死因子(TNF)刺激後のNF-κB p65の発現は,CTR由来アストロサイトと比較して,SCZ由来アストロサイトでは50%程度減少していた。

血管新生と血管系の発達に関与するタンパク質は,非TNF-α刺激SCZ由来アストロサイトで発現量が増加した。AsczCM処理ではAconCM処理よりも,静止状態及びTNF-α曝露状態の両方で有意に多くの血管新生が起きた。TNF-αは,AsczCMとAconCMの両方のアッセイにおいて,血管網の変化を含む血管の形態変化を起こした。AconCMと比較して,AsczCMはCAM血管の平均径を約30%減少させた。

AsczCMではAconCMと比較して,全ての炎症関連サイトカインが顕著かつ有意に増加し,炎症促進作用と一致していた。特に,インターロイキン(IL)-8はAsczCMで特に高濃度に検出された。

IL-8をAconCMと一緒に投与した場合,観察された血管の数及び平均血管径はAsczCMで記録されたものと同様であった。

考察

SCZ由来アストロサイトが慢性炎症特性を示すこと,血管新生シグナルの経路に変化が見られること,IL-8がSCZに関連する血管機能不全の主要な候補であることが明らかになった。このようなSCZ由来アストロサイトの慢性的な免疫活性化は,負のフィードバック制御を通じて,これらの細胞のNF-κB経路にも影響を与える可能性があると考えられた。

TNF-αによる刺激の有無にかかわらず,SCZ由来アストロサイトは,TNF-αに曝露したCTR由来アストロサイトと非常に近いクラスターを形成していることがわかった。先行研究の結果も踏まえると,神経炎症経路のSCZに関連した調節不全は,アストロサイトの遺伝子制御と本質的に関連し,発達中に何らかの起源を持つことが示唆された。

AsczCMの方がAconCMよりも多くの血管新生が起き,一方で血管径が小さいという結果は,SCZの血管新生の障害にアストロサイトが大きく関与している可能性を示唆した。SCZのアストロサイトが誘導する血管新生の増加は,炎症性障害の副産物である可能性が示唆された。

ケモカインであるIL-8は,SCZアストロサイトで非常に高い発現量を示し,AsczCMで起きた変化と同様の小さい径の血管新生を引き起こしていた。更にIL-8は血液脳関門に作用し,循環する免疫不全細胞を中枢神経系に接近させる可能性があり,SCZの神経炎症と血管の変化の中心的な役割を担っている可能性があると考えられた。

結論

アストロサイトに影響する内在性の神経炎症性不均衡が,統合失調症の発症を引き起こす一因であると考えられた。また,アストロサイト由来のIL-8は,脳血管網に影響を与え,その微小環境を破壊する可能性がある。アストロサイトの免疫制御は,SCZの新たな薬物療法の開発ターゲットとなり得る。

261号(No.3)2023年7月31日公開

(三村 悠)

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