治療抵抗性高齢者うつ病における抗うつ薬の補強療法と切り替えの比較

N ENGL J MED, 388, 388:1067-1079, 2023 Antidepressant Augmentation versus Switch in Treatment-Resistant Geriatric Depression. Lenze, E. J., Mulsant, B. H., Roose, S. P., et al.

背景

大うつ病は高齢者に多く,第一選択薬である抗うつ薬に対して抵抗性であることが少なくない。治療抵抗性うつ病は,2種類の抗うつ薬の適切な使用により寛解しないうつ病と定義されている。高齢者では,治療の失敗は心理的幸福度の低下,障害,認知機能低下と関連している。高齢者を対象としたうつ病の無作為化試験では,アリピプラゾールによる増強が,プラセボよりもうつ病の軽減に有効であることが報告された。他の試験では,アリピプラゾールによる増強またはbupropion*の併用が,bupropionへの切り替えよりもわずかに効果が高かったが,治療抵抗性の高齢者うつ病を対象とした治療戦略を明確にする大規模比較効果試験は限定的であった。

高齢者の治療抵抗性うつ病に対する補強療法の有益性とリスクを,切り替え療法と比較して検討することを目的として,本研究を行った。

方法

60歳以上の治療抵抗性うつ病患者を対象に,2段階の非盲検試験を実施した。ステップ1では,患者を1:1:1の割合で,服薬中の抗うつ薬へのアリピプラゾールによる増強,bupropionの併用,服薬中の抗うつ薬からbupropionへの切り替えに無作為に割り付けた。ステップ1で症状が軽快しなかった,もしくは不適格であった患者はステップ2に割り振られ,1:1の割合で,リチウムによる増強,またはノルトリプチリンへの切り替えに無作為に割り付けた。各ステップは約10週間で,主要転帰は,National Institutes of Health Toolbox Positive AffectとGeneral Life Satisfaction下位尺度で評価した心理的幸福度の基準時点からの変化とした(集団平均50,評点が高いほど幸福度が高い)。副次転帰は,うつ病の寛解とした。

結果

2017年2月22日~2019年12月31日の期間に742名の患者が組み入れられ,ステップ1には合計619名の対象が割り付けられた(アリピプラゾール増強211名,bupropion併用206名,bupropion切り替え202名)。アリピプラゾールによる増強は,bupropionへの切り替えよりも幸福度を有意に改善した(4.83 vs 2.04,p=0.014)。その他の群間比較には差がなかった。アリピプラゾールによる増強は,bupropionへの切り替えよりも寛解率も高かった(28.9% vs 19.3%;リスク比1.50)。ステップ2には合計248名の対象が組み入れられた(リチウム増強127名,ノルトリプチリン切り替え121名)。ステップ1でアリピプラゾールによる増強やbupropionへの切り替えが失敗した患者では,リチウムによる増強やノルトリプチリンへの切り替えによる幸福度の変化や寛解率の発生に差がなかった。

安全性に関しては,1名当たりの転倒率が,アリピプラゾールによる増強で0.33,bupropionの併用で0.55,bupropionへの切り替えで0.38であり,bupropionの併用と比較すると,アリピプラゾールによる増強での転倒のリスク比は0.59であった(p=0.02)。

考察

本試験は,治療抵抗性うつ病の高齢者に対して,様々な抗うつ薬戦略の有益性と安全性を比較した。主要転帰である心理的幸福度に対して,アリピプラゾールによる増強療法は,bupropionへの切り替えよりも有意に優れていることが明らかになった。Bupropionの併用の効果はアリピプラゾールによる増強と同様であったが,転倒の割合が高かった。ステップ2においては,リチウムによる増強とノルトリプチリンへの切り替えは,有効性と安全性において同等であった。

本試験は,これまでの薬物療法が無効であった場合のうつ病治療の難しさと,転倒予防策の重要性を明らかにした。

*日本国内では未発売

261号(No.3)2023年7月31日公開

(岩田 祐輔)

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