治療抵抗性うつ病の高齢者と非高齢者におけるリチウム増強療法が腎臓へ及ぼす急性の影響の比較

ACTA PSYCHIATR SCAND, 147, 267-275, 2023 Acute Effects of Lithium Augmentation on the Kidney in Geriatric Compared With Non-Geriatric Patients With Treatment-Resistant Depression. Osterland, S. L., Adli, M., Saritas, T., et al.

背景

抗うつ薬のリチウム増強療法(LA)は治療抵抗性うつ病(TRD)の第一選択療法とされる。しかしながら,主に腎毒性の懸念があるために高齢者に使われることは稀である。

過去のメタ解析において,リチウム毒性は腎濃縮力を低下させることを除き,臨床的な腎機能低下を示すエビデンスに乏しいことが結論付けられている一方で,最近の研究ではリチウム治療下では腎障害のリスクが最大で2倍高く,高齢や治療期間によってそのリスクが上昇することが明らかにされている。高齢患者でのLAの有用性は知られているにもかかわらず,高齢者でのリチウムの腎毒性に関する研究はごくわずかである。

本研究の目的は,高齢者におけるLA中の推算糸球体濾過量(eGFR)の変化や急性腎障害(AKI)の発生件数を非高齢者と比較検討することである。

方法

本研究は前方視的観察型多施設共同コホート研究である。組み入れ基準は,単極性うつ病,18歳以上,抗うつ薬治療の適応,少なくとも4週間以上の抗うつ薬投与への不十分な反応によるLAの適応,ハミルトンうつ病評価尺度12/17点以上,インフォームドコンセントに記入した者とし,除外基準はLAの禁忌,他の身体的・精神的疾患による抑うつ症候群,認知症,物質使用障害,反社会的パーソナリティー障害とした。高齢者の定義は65歳以上とした。

対象患者をLA中に最大6週間モニターし,最初の2週間にわたり,リチウムの血清濃度が治療域(非高齢者で0.5~0.8mmol/L,高齢者で0.4~0.8mmol/L)に達するまでリチウム投与量を漸増した。対象患者からは,最初のリチウム投与前に少なくとも1回,LA中に少なくとも1回の検査値を得ることとした。最大6週間の観察期間中,最後に得られたクレアチニン値をエンドポイントとした。

結果

計201名の患者が組み入れ基準を満たし,コホートに参加した。29名が高齢者群,172名が非高齢者群であった。

両群とも治療期間中に有意なeGFRの低下を示し,高齢者群ではeGFRはより低値であった(p<0.01)。LAが効果的と解釈できるリチウムの血清濃度は,eGFRの低下に有意な影響を及ぼした(p<0.01)が,リチウム血清濃度と年齢との間には,eGFR低下に対して統計学的に有意な相互作用は認められなかった(p=0.51)。これはeGFR低下に対する両方の効果(年齢層とリチウム血清濃度)は互いに影響せず,eGFR低下に対するLAの効果は年齢層間で差がないことを意味した。

高齢患者2名が,血清リチウム濃度が中毒域かつ臨床的な中毒症状出現下でAKIを発症した。リチウム中毒やAKIの臨床症状がない高齢者群では,更に2名でリチウムの血清濃度が中毒域となった一方で,非高齢者群では血清リチウム濃度の中毒域の発生例は観察されなかった(p<0.01)。

結論

本研究結果は,高齢患者では治療に関連したeGFRの低下を補完する能力が低下しているため,LA中にAKIのリスクが高くなる可能性があることを示唆している。また,高齢患者におけるリチウム中毒の発生率が有意に高いことは,本研究において,週ごとの臨床検査と副作用の評価により発見され,早急に治療が行われた。綿密なモニタリングが考慮されれば,臨床医は高齢患者のTRDに対する治療過程において,より頻繁に,より早い段階でLAを考慮できるかもしれない。

261号(No.3)2023年7月31日公開

(渡邉 慎太郎)

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