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Psilocybinの抗うつ作用の可能性を探る:神経回路メカニズムの解明に向けて,ヒト研究と動物モデルからの知見を統合する
PSYCHOPHARMACOLOGY, 240, 27-40, 2023 Probing the Antidepressant Potential of Psilocybin: Integrating Insight from Human Research and Animal Models Towards an Understanding of Neural Circuit Mechanisms. Meccia, J., Lopez, J., Bagot, R. C.
近年,psilocybin*を含むセロトニン作動性幻覚剤の治療可能性について関心が高まっている。本総説では,psilocybinの抗うつ効果に関する現在の知見を概観し,ヒトと前臨床研究の橋渡しをして,潜在的な神経回路メカニズム,未解決の疑問,前臨床研究での留意点を明らかにする。
ヒトでの研究
Psilocybinの治療可能性に関する臨床試験とヒトでの実験的な調査は,うつ病を含む精神障害の治療にこの薬を使用することを支持している。これらの研究で確立された抑うつ症状の持続的な改善は,psilocybinが持続的な抗うつ作用を発揮することを示唆しているが,そのメカニズムはまだ確立されていない。Psilocybinは,認知,感情,行動において急性及び長期の変化を引き起こし,これらと相関する変化をうつに関連するネットワークの領域活動及び結合性にももたらすことが,ヒト臨床試験で証明されている。
動物実験
Psilocybinは前臨床モデルにおいて,うつ病に関連するストレス関連の行動障害を迅速かつ永続的に軽減できることが示唆された。Psilocybinのシナプス形成作用を調べた最近の研究からの有望な知見は,psilocybinがサイコプラストゲンであり,神経可塑性を促進して神経接続を変化させ,最終的には行動を変化させるという仮説を支持している。
Psilocybinと皮質回路
うつ病では前頭前皮質が障害されているという証拠と,psilocybinが皮質活動を調節することを示す最近の知見を総合すると,前頭前皮質はpsilocybinが抗うつ作用を発揮する主要な部位である可能性が示唆される。この領域におけるセロトニン受容体の動態を,セロトニン非依存的なメカニズムと共に理解することにより,薬物による局所的な急性変化が,どのように回路全体に持続的な変化をもたらすかを知るのに役立つであろう。
セロトニンによる前頭前皮質の調整
Psilocybinのようなセロトニン受容体結合薬は,細胞の興奮を調節することにより,前頭前皮質の局所回路の動態を変化させ,最終的には視床・扁桃体・線条体へのV/VI層投射を介して分散された脳回路に影響を与えると同時に,視床・扁桃体・拡張皮質領域からの入力の統合を形作るかもしれない。更に,psilocybinは,脳内のセロトニン受容体の局所的なシグナル伝達を介して,これらの前頭前皮質の標的領域を直接調節している可能性もある。Psilocybinが前頭前皮質の局所的な回路の機能と広範囲の結合性の両方をどのように形成し,抗うつ効果を媒介するのかを正確に見出すためには,更なる研究が必要である。
今後の展望
回路,分子,行動神経科学のツールキットを活用することで,psilocybinが神経シグナルをどのように急性に調節するかが解明され,回路動態やうつ病関連行動に対する持続的効果が明らかになり,これらの変化が起こる特定の細胞タイプや回路をマッピングすることができるようになる。
結論
雄と雌の強固なげっ歯類行動モデルで神経科学の技術を活用することは,psilocybinの治療効果のメカニズムを明らかにする大きな可能性を秘めている。最終的には,より効果的で具体的な臨床用プロトコルの開発に繋がる可能性がある。
*日本国内では未発売
261号(No.3)2023年7月31日公開
(米澤 賢吾)
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