うつ病と2型糖尿病を併存する患者における多剤併用とうつ病の再燃の関係:英国の電子カルテ研究

BR J PSYCHIATRY, 222, 112-118, 2023 Association Between Polypharmacy and Depression Relapse in Individuals With Comorbid Depression and Type 2 Diabetes: A UK Electronic Health Record Study. Jeffery, A., Bhanu, C., Walters, K., et al.

背景と目的

2型糖尿病(T2DM)の併存はうつ病の再燃の危険因子であることが報告されているが,背景にある要因は明らかではない。一方で,身体合併症に対する多剤併用とうつ病の症状増悪との間には相関が示されており,T2DM患者では多剤併用が一般的であることを考慮すると,多剤併用がT2DM併存うつ病患者の再燃の一因となっている可能性がある。

ところで,英国のNICEガイドラインや世界保健機関(WHO)はうつ病の再燃リスクが高い患者に対して少なくとも24ヶ月は抗うつ薬での維持療法を行うよう推奨しているが,このハイリスク群にT2DM併存や多剤併用が含まれるかどうかは明示されていない。

そこで本研究では,T2DM併存うつ病患者を対象に,うつ病の再燃と多剤併用との相関,及びうつ病の再燃と抗うつ薬中止前の服薬期間との相関をそれぞれ検証した。

方法

英国の大規模外来データベースを用いて,2000~2018年のプライマリーケアにおける診療記録を追跡した。調査期間中に抗うつ薬を初回導入されたT2DM併存うつ病患者を対象とし,最後の処方予定期間から60日以内に処方がなかった場合に中止と定義した。転帰であるうつ病の再燃は抗うつ薬の再開で評価し,第1の曝露は中止前の抗うつ薬を除いた併用薬物数,第2の曝露は中止前の抗うつ薬の服薬期間とした。

罰則付き最尤法に基づいて推定されたB-スプラインによる非線形Cox回帰モデルを用いて,抗うつ薬の再開と,併用薬物数及び抗うつ薬中止前の服薬期間との相関を調べた。

結果

48,001名がコホートの対象として抽出された。年齢の中央値は62歳で,53%が女性,併用薬物数の中央値は9剤であった。大多数は抗うつ薬を6ヶ月以内と早期に中止しており,中止までの期間の中央値は2.79ヶ月であった。また,35.39%が中止後1年以内に抗うつ薬を再開していた。

併用薬物数と抗うつ薬の再開率との間には,18剤まで用量依存的な相関が認められた(図)。併用薬物数が中央値の9剤の時,抗うつ薬の再開率はハザード比(HR)=1.64[95%信頼区間(CI):1.44-1.86]と64%上昇し,最大の相関がある18剤の時はHR=2.15(95%CI:1.32-3.51)と115%上昇した。

また,中止前の抗うつ薬の服薬期間と抗うつ薬の再開率の間にも用量依存的な関係が認められ,中止前に24ヶ月以上抗うつ薬を服薬していた群では,服薬期間が6ヶ月未満であった群に比べて,HR=2.36(95%CI:2.25-2.48)と再開率が136%も上昇した。

考察

T2DMとうつ病を併存する患者では,服用薬物が多いほど抗うつ薬の再開率が高かった。また,予想に反して,中止前の抗うつ薬の服薬期間が長いほど,抗うつ薬の再開率が高いことが示唆された。この結果は,抗うつ薬を長期服薬していた患者ほどうつ病が重症であったこと,服薬期間が短かった患者は忍容性に問題があって抗うつ薬の再開がためらわれたことなどを反映しているのかもしれない。

本研究の強みは,通常の無作為化対照試験では除外されるような複雑な背景を有する患者を対象として,実臨床での処方に基づく大規模なデータを利用したことにある。

図.抗うつ薬中止時点での併用剤数による抗うつ薬再開率のハザード比

261号(No.3)2023年7月31日公開

(荻野 宏行)

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